With you~駆け抜けた時・高1 春&夏編~
練習が始まる頃には、従来の徹フリ-クに加えて、新たに発生した省吾ファンの女子たちが賑やかに、華やかにグラウンドを取り囲んで・・・あぁ、うるさい!


そんなことに心乱されてる状況じゃない。念願のハマスタでの準々決勝を控えて、私たちのチ-ムは重大な事態に直面していた。前日の試合で負傷退場した星さんは結局、左足首を骨折していて、このあとの試合出場は絶望的。松葉杖をついて、沈痛な面持ちで現れた星さんの痛々しい姿に、私たちは言葉を失ったけど、エースで3番打者である星さんの離脱は、チ-ム構成を改めて検討せざるを得なくなる重大事態だった。


星さんを失ったマウンドを守るのは、もはや白鳥くんしかいない。


「昨日の小林を見てもわかるように、いかな好投手でも1年生でこの炎天下に1人で投げ切るのは難しい。だが、こうなっては白鳥で戦うしかない。」


白鳥くんの力を誰よりも認めながら、いやそれゆえに彼を大事にして来た石原監督も、もはや決断するしかなかった。


「初戦からフル回転だった小林と違って、僕は割と温存されて来たから。あと3試合くらい、投げ切って見せるよ。」


白鳥くんはそう言って、自信を見せた。そして受けるキャッチャ-は・・・。


「村井で行こう。」


白鳥くんとの相性を考慮して、監督が断を下した。


「普段なら冗談じゃないと言いたいし、なにより同じ3年の澤田のポジションを奪うことになるのは抵抗もある。だが事ここに至っては、勝つために最善を尽くすべきだ。甲子園に行く為には、俺の感情やプライドなんて、何の意味もない。」


西さんはこう言って、ファーストへのコンバ-トを受け入れた。そしてセカンドは好守の片岡さんを外し、どのポジションも器用にこなす後藤さんが起用されることになった。高校野球において、最高学年である3年生の存在は、ある程度グラウンドに必要だというのが、監督の意向だった。


そして打順は星さんの代わりの3番にはミートの上手い河井さんが6番から昇格、代わって6番にパンチ力のある村井さん、白鳥くんはピッチングに専念できるように9番に入ることのなった。


ここに来てのポジション、打順の変更は決して望ましいことではないけど、しかし仕方がない。


(現状ではたぶんこれがベストの布陣。やるしかないんだよね。)


雑念を振り払って、練習に励んでいる選手たちを見守りながら、私は改めて強く思っていた。
< 117 / 200 >

この作品をシェア

pagetop