With you~駆け抜けた時・高1 春&夏編~
選手たちに合流して、グラウンドに向かっていると、ちょうど相模高のナイン達が、引き上げて来るのに出くわした。


特に言葉を交わすことはなく、お互いに黙礼しながら、すれ違ったのだが、相模高の列の中にひときわ目立つ背の高い選手が目に付いた。


「矢代だ。」


横にいた白鳥くんが教えてくれる。


「彼が矢代くんか、随分背が高いね。」


「うん、確か186だったかな。」


ウワッ、私たちと同じ高1で、それは高い。私が内心で驚いていると、フッと矢代くんが鋭い視線で、こちらを見た。


(えっ、睨まれてる?)


少しビビってしまったが、よく見ると、私ではなく横の白鳥くんに視線を送っているみたい。


その視線に気付いたように、白鳥くんも矢代投手を見る。一瞬2人の間に火花が散った・・・ように見えたけど、すぐに視線を外した2人は何ごともなかったかのように歩き出す。


(気のせいかな・・・?)


そんな2人の様子が気になったけど、今はそれを白鳥くんに確認する状況でもなく、私はそのまま、選手たちとベンチに入った。


今日の対戦相手、秦野台高校はノーシードでここまで勝ち上がって来た。ここと言うときの集中打が売り物で、勢いに乗っている。


だけど、その強力打線を相手に、公式戦初先発となった白鳥くんはほぼ完璧なピッチングを見せた。


伸びのあるストレートと、キレのいい変化球をビシビシ投げ込んで、秦野台高打線を寄せ付けない。


「いよいよ白鳥徹が本領発揮ということだな。」


「そうだね。」


佐藤くんの言葉に頷いた私は、スコアブックにまたひとつ、Kの文字を書き入れる。


一方、新打線となった攻撃陣も、相手投手を順調に攻略。松本くんは今日はホームランは打てなかったけど、ヒット3本。4番キャプテンの3ランホームランがトドメとなって8-0で7回コールド勝ち。


「準々決勝でのコールド勝ちは大きい。みんな、よくやった。」


試合後の挨拶が終わって、戻って来た選手たちを監督が笑顔で迎える。炎天下での厳しい試合が続く中、体力温存につながるコールド勝ちは本当にありがたい。


引き上げる準備を始めた私が、ふとスタンドを見ると、相模高の選手たちの姿が目に入った。いつの間にか、明協の試合を見ていたらしい。


彼らも引き上げようとする中、矢代投手だけが、ジッと私たちの方を見つめている。私はまたハッとしたが、それに気付いたかのように、矢代投手はクルリと背を向けた。
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