With you~駆け抜けた時・高1 春&夏編~
翌日の練習は午前中で終了。


「もうすぐ、御崎の試合が始まるんじゃないか?」


キャプテンに問われて


「はい、1時からだったと思います。」


私は返事をする。


「じゃ、急いで昼飯食って、部室でみんなで観戦するか?」


「いや西。今から球場に向かえば、3回くらいに間に合うだろ。せっかくだから直接試合を見ねぇか?」


東尾さんの提案に、多くの賛同の声が上がり、頷いたキャプテンが監督、部長の許可を得て、私たちはハマスタに向かった。


「いよいよ松本哲投手のピッチングが生で見られるんだね。」


やや興奮気味に言った私に


「ここまで松本さんは4試合で1点も取られてない。ヒットもわずか3本しか打たれてない。」


久保くんが教えてくれる。


「えっ、何それ?」


「相変わらず、とんでもないピッチングをしてるな。」


私は驚きの声を上げ、キャプテンは苦笑いだ。


「ついでに言えば、御崎はここまで全部5回コールド勝ちで、兄貴がひとりで投げきっている。たぶん兄貴にとっては、ここまでは、ウォーミングアップ代わりのようなもんでしょう。」


松本くんの声にも呆れの響きが感じられる。


「おい省吾、お前なんとかして兄貴の食事に下剤でも混ぜろよ。」


冗談めかした大宮くんの言葉に


「バカ、御崎の野球部員はみんな合宿所に入ってるんだ。出来るわけないだろ。」


「でも、もし決勝戦でウチと御崎が当たったら、松本くんのお父さんとお母さんはどっちを応援するのかな?」


なんて軽口を松本くんや私が返しているうちは、まだよかった。


歓声が上がるスタジアムに、足を踏み入れた途端、私たちは固まる。


「おい、この試合、準々決勝だよな?」


「うん・・・。」


スコアボードには3回表、御崎高の攻撃中で既に10-0。塁上に3人の走者がいて、バッターは4番松本哲さん。  


スタンドから見ても、蒼ざめた様子の相手ピッチャーのボールを、容赦なく打ち返した松本さんの打球は、軽々とレフトスタンドに届いた。


「満塁ホームラン、グランドスラムだ・・・。」


松本くんがぽつんと漏らした言葉に、私は頷くことしか出来ない。


ガックリとマウンドで膝をつく相手ピッチャーを尻目に松本哲さんは当然と言わんばかりに、表情1つ買えずに、ホームインした。
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