With you~駆け抜けた時・高1 春&夏編~
次の日、朝から集合して、練習に入った私たちだけど、明後日の準決勝に向けて、活気に満ち溢れていなければならないのに、重苦しい空気に包まれていた。


「失敗だったか?昨日の敵情視察は。」


練習に顔を出した山上部長の言葉に、石原監督も渋い顔だ。


このままじゃいけないと、私も思う。でも御崎高の強さ、松本哲投手の凄さは話には聞いていたし、実際に相手をほぼ寄せ付けないでここまで勝ち進んでいるのも知ってはいたけど、2回戦あたりの力の差が歴然としている相手ではなく、ベスト8まで勝ち進んで来た高校を一蹴するのを目の当たりにすると、やはり衝撃的だった。正直、勝ち目があるようには思えなかった。


「勘違いするな。俺たちの明後日の対戦相手は御崎じゃない、相模高だ。先のことを考えている暇は俺たちにはないんだ、まずは相模高に勝つことだけに集中しろ。」


たまりかねた監督が、練習を中断して、選手たちを集めて、喝を入れる。


「はい!」


と監督の前では、一応元気な返事をしては見せたものの、その心の内は・・・。


この日は、昼食休憩を挟んで、夕方まで練習。明日は試合前で半ドン、そのあとは準決勝、決勝と試合が続く。暑さは厳しいけど、今日が事実上の最終練習日だ。


お昼はみんな揃ってグラウンドで・・・なんてことは、この暑さではとても無理で、それぞれが思い思いの場所で摂ることに。私たち1年生は1-Cの教室で一緒に食べることにした。


「省吾、今更だけど、お前の兄貴、とんでもない選手だな・・・。」


ため息交じりで言い出したのは大宮くん。


「兄貴が確かに凄いピッチャ-なのは間違いないけど、御崎があそこまで強いのは、前にも言ったけど、決して兄貴のワンマンチ-ムじゃないからだ。」


「わかる。昨日の試合を見てても思ったし、データや過去の試合の映像を見てもそうなんだけど、とにかくスキがないんだよ。必要以上に相手を見下すこともないし、油断もしない。各自がそれぞれにやるべきことをやって、確実に勝ちを収める。偉そうな言い方をするけど、高校野球の1つの理想形のチ-ムだよ。」


久保くんの分析に、私たちは頷くしかない。


「オッサンが言ってることはもっともなんだけど、あの強さを見ちまったら、ちょっと他のこと考えられなくなる。参ったよ。」


強気で鳴らす佐藤くんもこんなことを言い出す始末。私たちは意気上がらない雰囲気のまま、昼食を終えた。
< 122 / 200 >

この作品をシェア

pagetop