With you~駆け抜けた時・高1 春&夏編~
やがて、汗びっしょりかいた山下さんが、こちらに戻って来た。


「お疲れ様です。」


「ありがとう。」


私が差し出した紙コップを受け取った山下さんは、それを一気に飲み干すと


「美味しいね。」


と言ってニッコリ。その笑顔が可愛くて、私は思わず見惚れてしまう。そして星さんに視線を向けると


「大丈夫?ケガ。」


今度は心配そうに尋ねる。


「面目ありません。大事な時にこんな無様なことになっちまって・・・。」


「星、それは違うよ。」


俯くように言った星さんに、山下さんの声は優しかった。


「あのプレ-、ビデオで見たけど、あんた打球を足で止めに行ってたもんね。懸命にプレ-した代償のケガなんだから、胸張ってればいいんだよ。」


「先輩・・・。」


「骨折だからさ、1ヶ月あれば治る。だったら間に合うじゃん。」


「えっ?」


「甲子園の・・・決勝戦にさ。」


「山下さん・・・。」


その言葉に、私も星さんも驚いて、山下さんを見る。


「あんたの高校野球はまだ終わったわけじゃない。だから、腐ったり諦めたりするんじゃないよ。」


「はい。」


頷いた星さんに、微笑む山下さんの表情は優しい。


「それにしても、先輩のノック、現役の頃から全く落ちてませんね。」


「2年ぶりにしては、まぁ上出来だったよね。」


「えっ、マジですか?」


「卒業式の日に、あんた達に追い出されノックをしたのを最後に、きっぱりと野球とは縁を切って、猫被って言葉遣いも女子っぽくして、可愛い女子大生やってきたんだから。でも、お蔭さんで、今日1日で真っ黒に日焼けしちゃって、全部台無しだよ。」


「すみません。」


なぜか星さんが謝ってる。


「でもさ、やっぱりいいね、野球って。」


「先輩・・・。」


「高校野球って最高!」


「はい!」


山下さんのとびっきりの笑顔に、私は激しく同意していた。


結局、最後まで練習に参加していた山下さん。午前中にグラウンドに漂っていた重苦しい空気なんて、いつの間にかどこかへ吹き飛んでしまって、みんな一心にボールを追い、ボールを投げ、そしてバットを振っていた。


「ありがとうございました!」


練習が終わり、私たちは全員で山下さんに挨拶した。それに笑顔で応えた山下さんは


「みどり、ごめんね。ジャージこんな汗まみれにしちゃって。ちゃんと洗濯して、明日返すから。」


と一言。


「えっ、明日もいらっしゃるんですか?」


思わず口走ってしまったキャプテンは


「何?なんか文句あるの?西。」


と睨まれ


「と、とんでもありません。」


慌ててかぶりを振る。普段の大人の雰囲気のキャプテンとのギャップに、私が必死に笑いを堪えていると


「あんた達がとにかく心配だし、それに・・・こんな楽しい時間を思い出しちゃったんだから、今日1日で終わりになんて出来ないよ。」


と言ったあとの山下さんの笑顔は、同性の私の目から見ても素敵だった。
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