With you~駆け抜けた時・高1 春&夏編~
みんなと違い、御崎高ナインからの視線など、意に介する様子もなく、白鳥くんは先頭バッタ-に得意のストレ-トを投げ込んで行く。そしてあっと言う間に追い込むと、あっさりと三振に切って取る。ワッと湧くスタンド。


「評判通りいいボールを投げるじゃないか、1年の頃のお前と比較しても、スピ-ドは遜色ないんじゃないか?」


と隣の松本哲さんに話し掛けたのは、御崎高の正捕手高橋航(たかはしこう)さん。


「ああ。それに女子の人気なら、完敗だ。」


そう言って、一瞬笑みを見せた松本さんは、すぐに真剣な表情に戻って、マウンドに視線を送る。


2番バッタ-はサードゴロ、だけど松本くんが打球を取れずに弾いてしまう。エラ-だ。今度は省吾フリ-クのため息が聞こえて来る。


「省吾、ボールじゃなくてスタンドに意識が行ってて、ゴロが捕れるわけないだろう。」


キャプテンの厳しい声が飛ぶ。やはりどうしてもお兄さんの存在が、気になってしまうようだ。


(松本くん、集中だよ。)


キャプテンや白鳥くんに謝って、ポジションに戻る松本くんに、私は声援を送る。


「相手のエラーの後の初球は狙え」というのは、古くからある野球の格言だそうで、左打席に入った相模高の3番打者はその言葉通りに、ファースト横に飛ぶ痛烈なゴロを放ったが、横っ跳びに飛びついたキャプテンがボールを処理すると、セカンドに矢のような送球。


そしてファーストベースカバーに入った白鳥くんにボールが返って来て、間一髪アウト。ダブルプレー成立でチェンジ!


「キャプテン、ナイスプレーです!」


私は思わず立ち上がって拍手。白鳥くんも松本くんもありがとうございますとばかりに一礼。


それにミットを上げて応えると、キャプテンは小走りにベンチに戻って来る。


「巧いなぁ、とてもキャッチャーが本職とは思えんなぁ。」


スタンドでは高橋さんが感心している。


「西ならあのくらいのプレーは朝飯前さ。それより、俺は西が、後輩にキャッチャーのポジションを明け渡して、ファーストでの出場を受け入れたのが、本当に信じられん。アイツのこの大会にかける覚悟とか決意がヒシヒシと伝わって来る。」


「そうだな、最後の夏だからな。悔いがないように、そう思ってるんだろうな。」


「ああ。」


高橋さんの言葉に、松本哲さんは大きく頷いた。
< 132 / 200 >

この作品をシェア

pagetop