With you~駆け抜けた時・高1 春&夏編~
試合は白鳥、加賀美両投手の投げ合いで0-0で進んで行く。試合が動いたのは4回表、この回の先頭バッタ-の大宮くんが初球を狙いすましたようにセンタ-前に運ぶ。


(もう、あんたのボ-ルは見切ったぜ。)


一塁ベース上で、大宮くんはニヤリと笑っている。続く東尾さんがバントで送って、河井さんがフォアボ-ルで出塁。ここでキャプテンが痛烈にレフト前にヒットを放つ。だけど当たりが良すぎて、俊足を誇る大宮くんでも三塁ストップを余儀なくされる。


「ア~、完全に1点だと思ったのに。」


悔しがる私に


「凄まじい当たりだったけどな、仕方ねぇ。」


「大丈夫、この後松本がきっちり決めてくれるさ。」


佐藤くんと白鳥くんが、宥めるように言って来る。


「そうだよね。」


2人の言葉に頷いた私の視線の先には、場内アナウンスとスタンドからの大歓声に送られて、松本くんがバッタ-ボックスに向かう。


するとタイムがかかり、相手ベンチから伝令が出る。マウンドに向かうのかと思ったら、主審の方へ。


「ピッチャ-交代?」


「恐らく、矢代だろう。」


私の言葉に答えた白鳥くんの視線が、キッと鋭くなる。そして予想通り、マウンドに矢代投手が向かい、加賀美投手はライトのポジションに入った。


「矢代の評判は中学の頃から聞いてるけど、今大会の調子じゃ、松本の敵じゃないだろう。」


佐藤くんの言葉に私は頷くけど、ジッと投球練習中の矢代投手をジッと見つめている白鳥くんは


「矢代はこのまま引き下がる奴じゃない。このピンチに相手の監督がエースの加賀美さんに代わって、奴を投入して来たのが何よりの証拠だ。」


と言い切った。それでも半信半疑で見ていると、試合再開後の1球目。大きく振りかぶった矢代投手の投げ込んで来たボールは、ものすごいスピ-ドでキャッチャ-のミットに吸い込まれて行った。


「えっ?」


私が思わず息を呑むと


「ストライク!」


主審のコールが響いて来る。


(速い・・・。)


打席の松本くんもやや唖然としているのが看て取れる。キャッチャ-からの返球を受け取った矢代投手は、表情も変えずに第二球目のモーションに入る。完全に立ち遅れた形に松本くんは、そのボールを茫然と見逃すしかない。


「ストライク!」


「タ、タイム。」


そのコールを聞いた松本くんが、慌てたように打席を外す。


(あのテンポに巻き込まれたらどうにもならない。それに・・・速い。)


松本くんは懸命に自分を落ち着かせながら、マウンドの矢代投手を見る。そして改めて打席に入って、三球目を待つ。
< 133 / 200 >

この作品をシェア

pagetop