With you~駆け抜けた時・高1 春&夏編~
マウンドに全内野手が集まる。


「すまん・・・。」


力ない言葉で白鳥くんに謝る松本くんに


「今は下を向いてる場合じゃないぞ、省吾。」


キャプテンの厳しい声が飛ぶ。


「大丈夫だ、松本。絶対抑えてやる。絶対に俺は矢代より先に点を取られたりはしない。」


「白鳥の球威は落ちてはいない。だからお前はしっかり守って、次の回で打つことを考えてろ。」


白鳥くんと村井さんのバッテリ-に励ましの声を掛けられた松本くんは


「わかりました、白鳥、頼むぞ。」


「おう。」


そう声を掛けると、白鳥くんは力強く頷いた。


「監督、セカンドに片岡を入れて、サードに後藤を回して、守備固めをした方が・・・。」


ベンチでは澤田さんが進言して、私はハッと監督を見たけど


「松本がいなければ、ウチはここまで勝ち進んで来られなかった。違うか?澤田。」


監督は穏やかな口調で先輩に言う。


「それはわかりますが・・・。」


「星が倒れた後のマウンドを白鳥が守ってくれなかったら、やはり俺たちは今、ここにはいないはずだ。澤田の気持ちはわかるが、今は後輩たちを信じて任せろ。」


「・・・はい。」


監督の言葉に、澤田さんは引き下がるしかなかった。


(白鳥くん、松本くん、監督は2人を信頼してるよ。もちろん・・・私も。)


私はグラウンドに改めて視線を向ける。


一打サヨナラ、1死フルベ-ス。


(悔いなきように、ここは俺の一番自信のある球、ストレ-トしか、ない。)


そう思い定めて、村井さんのサインを覗き込んだ白鳥くんは、次の瞬間、大きく頷いた。


(さすが村井さん、俺のことをわかってくれてる。)


白鳥くんは延長11回まで投げて来たとは思えないくらいなダイナミックなフォームで自慢のストレ-トを投げ込む。ストライクだ。


(白鳥はストレ-ト勝負か。なら俺も死んでも飛んできた打球を逃さない。)


それを見た松本くんはグッと腰を低く下ろす。その一方で


(白鳥、村井。この場面で力一辺倒の勝負は危険だ。)


キャプテンは危惧を抱く。しかしそれを白鳥くんたちに伝える暇もなく、第2球が投じられる。キャプテンの不安は的中し、ストレ-ト勝負を読み切っていた相手バッタ-のバットは一閃。放たれた痛烈なライナ-はサードを襲う。その打球を松本くんがガッチリ掴んだ・・・と思った次の瞬間に、打球の勢いに押されたかのように、ボ-ルがグラブがこぼれ落ちた。
< 136 / 200 >

この作品をシェア

pagetop