With you~駆け抜けた時・高1 春&夏編~
そのボールをすぐに拾った松本くんに


「松本、ホームだ!」


白鳥くんの声が飛ぶ。それに頷いた松本くんはすぐにバックホ-ム、更に村井さんからファーストのキャプテンにボールが転送されてダブルプレ-成立・・・。


「やった!」


私が思わずそう叫んだ、次の瞬間


「故意落球だ!」


相模高のベンチから声が上がり、伝令が主審のもとに飛び出して行く。


「故意落球って?」


隣の佐藤くんに尋ねる。


「ノーアウト、またはワンアウトで1塁にランナーがいる場合、守っている方がわざと飛球(フライまたはライナー)を落として、併殺を狙ったと看做された場合、審判がバッターのみにアウトを宣して、ランナーはそのままで試合再開するというルールがある。」


「でも今の松本くんのプレーはわざとじゃ・・・。」


「ないだろうな。でも相手からすれば、ひと言、言いたくなるだろうよ。」


「そっか・・・。」


佐藤くんの解説に納得した私は、相模側のアピールを受けて、協議している審判団を見つめる。すると協議の輪が解け、主審は相模ベンチに故意落球とは認められないとの判定を改めて伝えた。


不服ながらも引き下がるしかない相模に対して、私たちは歓声を上げる。


「松本。」


「ああ。」


松本くんを出迎えた白鳥くんがガッシリ握手を交わすとスタンドのフリーク達は大騒ぎ。


「やれやれ、省吾の守備の拙さが、結果としていい方に出た。それにしてもヒヤヒヤさせやがって。」


キャプテンが苦笑いしながら引き上げて来る。守備が巧い選手なら、わざと落としたと見られても仕方なかった・・・ということらしい。


「それが松本の持ってる『運』だ。」


「えっ?」


「勝負は運だけでは勝てないが、運を持ってなければ、勝つことも活躍することも絶対に出来ない。松本という選手は、それを持っている。こればかりは努力ではどうにもならない、天性のようなものだ。」


監督が真顔で語った言葉。私は思わず松本くんの顔を見つめる。


「木本さん、僕の顔になんか付いてる?」


そんな会話が交わされていたことを知らずに戻って来た松本くんが、不思議そうに聞いて来るから


「ううん、何でもない。」


慌てて首を振る。


「ピンチの後にはチャンスありだ。この回で決めるぞ。」


そんな私たちを見て、一瞬笑みを浮かべた監督は、すぐに表情を引き締めると、ナインを鼓舞した。
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