With you~駆け抜けた時・高1 春&夏編~
延長12回表、太陽は徐々に西に傾きつつあるけど、しかしその夏の陽は、尚も容赦なくスタジアムに照り付ける。そんな中、矢代投手は途中登板ながら、9イニング目のマウンドに立つ。普通なら完投と同じイニング、当然疲れはあるはずなのに、汗こそかいているものの、その表情は全く変わらない。


「凄いな。野球選手、特にピッチャ-はポーカ-フェイスの方がいいのは間違いないんだけど、それにしても実際にここまで表情を変えないで投げ続けるのはかなり難しいはずだ。」


松本くんが感心している。


「私たちと同じ1年生でしょ。」


「感情ねぇのかよ、アイツ。俺には信じらんねぇよ。」


「佐藤くんは喜怒哀楽の塊だもんね。」


「その方が普通だと思うぜ、野球選手は。」


私たちがそんな話をしているうちに、この回の先頭バッタ-の白鳥くんがショ-トゴロに打ち取られる。


「佐藤、準備しろ。」


すると監督が佐藤くんに指示を出す。


「えっ?」


「お前と対照的なポーカ-フェイスの塊の矢代だが、微妙に感情を出す場面があった。お互いライバル視している白鳥が打席に立った時だ。その時は矢代は自分の球威を誇示するかのように三振を取りに来ていた。しかし今の打席はアウトを取ればいい、そんな投球に見えた。さすがに疲れて来たんだろう、この機を逃すことはない。大宮が出たら、次に行くぞ。」


「はい!」


佐藤くんが勢い込んでベンチを出ようとするから


「ちょっと、まだ早いよ。」


私は慌てて制止するけど


(ヤス、頼んだぞ。絶対出塁しろよ。)


そんなことは意にも介さず、佐藤くんはグラウンドを睨み付ける。その大宮くんは佐藤くんの期待虚しくショ-トゴロ・・・かと思われたけど、当たり損ねが幸いして、間一髪セーフ、内野安打だ。矢代投手ほどじゃないけど、クールな大宮くんが思わず塁上でニヤリ。


「よっしゃ!」


それを見て打席に向かう佐藤くんは、代打を告げに伝令に出た澤田さんより明らかに早かった・・・。


「張り切ってるね、佐藤くん。」


「ここまで我慢させられたからな。それにしても今の内野安打は矢代には堪えてるはずだよ、打ち取ってる当たりだからね。ここでストレ-トには滅法強い佐藤、ここはチャンスだ。」


「そうだよね。大宮くんの足なら、外野の間を抜ければ、一気にホームインもあるからね。」


「その通り。」


私の声が聞こえたわけじゃないだろうけど、それを防ごうと、相手の外野手の守備位置がグッと深くなる。
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