With you~駆け抜けた時・高1 春&夏編~
ここまで代打での出場ばかりの佐藤くんだけど、彼の打席には特徴がある。初球に必ずバットを出すことだ。私が気が付いてるくらいだから、相手も当然気が付いているはず。松本くんの言う通りに、ストレ-トに強い佐藤くんに、あえて初球から矢代投手が武器であるストレ-トを投げてくるのか、私は注目していたんだけど、彼の選択はストレ-ト真向勝負。佐藤くんも待ってましたとばかりに振りに行くが空振り。


「剛、お前も意地っ張りだな。」


それを見て、白鳥くんが思わず呟いている。


そして2球目、打ってみろとばかりにまた投げ込まれたストレートを佐藤くんが捉えた。痛烈なレフト前ヒット。


「佐藤もやるなぁ。」


「えっ?」


「矢代がストレートしか投げてこないと見越して、初球はタイミングを計ったんだ。」


「そうなんだ。」


松本くんの解説を聞きながら、私は得意満面で一塁ベース上に立つ佐藤くんに拍手を送る。


続く河井さんは丁寧に送って、ツーアウトながら二塁三塁。西、松本の主軸に託す当然の作戦。


相手はキャプテンと勝負するのか、歩かせて満塁にしても松本くんと勝負するのか。難しい判断になると思って見ていたら、後者を選択。


(ここで決めたい、いや決めないと。)


今日の松本くんは、正直矢代投手の球威に圧されて、自分のバッティングが出来ていない。だけど、ここは勝負だ。


初球は真っ直ぐを狙ったけどファール、2球目ボール、3球目空振りでカウント1ボール2ストライク。追い込まれてしまった。


(松本くん、なんとか粘って。)


私の心の声が届いたのか、不利なカウントから松本くんはしぶとく粘り、際どいボールを見極めて、とうとう3ボール2ストライクのフルカウントまで持ち込んだ。次の球がボールなら押し出しで念願の1点が入る。ストライクなら三振でチェンジ。もちろん凡打でも同じ、でもヒットなら2点以上入る可能性もある。勝負の1球だ。


キャッチャ-からのサインに頷いた矢代投手は、力一杯腕を振って、渾身の力で松本くんの内角に得意球のストレ-トを投げ込んで来た。松本くんのバットがピクリと動いたけど、スイングはされない。見逃しだ。判定は・・・


「ボール、フォアボール。」


主審の声が響く。次の瞬間、明協の応援席からどっと歓声が上がる。私たちもベンチで大喜び。そんな中、松本くんはニコリと笑顔を見せると、1塁に歩き、マウンドの矢代投手は一瞬顔をゆがめたが、すぐにまたポーカ-フェイスに戻った。
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