With you~駆け抜けた時・高1 春&夏編~
「ということで、改めて明日の話だ。」


監督はそう言って、みんなを見回す。


「御崎高はエースでキャプテンの松本哲を中心にした強打堅守のチ-ムだ。走攻守全てにスキがなく、高校野球における理想的なチ-ムと俺も認めざるを得ない。だが、そんな御崎も無敗ではない。さきほど久保も言った通り、甲子園では準優勝止まり、必ず、どこかのタイミングで負けている。」


「はい。」


「神奈川でも甲子園出場に絡む大会ではここまで無敗だが、その他の大会では敗戦もある。つまり・・・御崎は絶対ではないということだ。」


監督の言葉に私たちは頷く。


「俺は、久保がまとめてくれたデータを改めて見直してみた。そして1つの結論に達した。御崎の強さは、ミスをしない強さだ。御崎がスキを見せずに相手にプレッシャ-を掛け、逆に相手のミスを誘発し、そして勝つ。それが御崎の強さだ。」


「・・・。」


「そしてもう1つ。はっきり言って、松本哲を打ち崩して、御崎に勝つということはほぼ不可能だ。松本が入学以来、公式戦で取られた点数の最高は3点、それも数えるくらいだ。ほとんどの試合を2点以下に抑えている。つまり御崎に勝つには、ロースコアの投手戦に持ち込んで、僅差で勝ち切るパタ-ンしか現状考えられない。とにかく明日の試合、1つのエラ-、1球の打ち損ない、そして1球の投げミスも許されない、そんな試合になる。御崎に勝つ為の秘策などない、ただ各人が1つ1つのプレ-を確実にこなす、それ以外に勝利の道はない。そのことを全員が肝に銘じて、明日の試合に臨んで欲しい。いいな。」


「はい!」


私たちの大きな声での返事で、ミーティングは幕を閉じた。


「それではこれで解散になります。確認ですが、明日の決勝戦のプレイボ-ルは11時です。学校集合は7時、出発は7時半です。くれぐれも遅れることのないようにお願いします。」


私からの連絡事項に頷いて、選手たちは席を立つ。その浮かべる表情はみな、厳しくそして凛々しかった。選手たちが退出し、最後に私が一礼してミーティングル-ムを後にすると、石原監督と山上部長が残された。


「いよいよここまで来たな。」


「ああ。」


山上先生の言葉に監督が短く頷く。そして


「ここまでよく来た、よくやったと褒めてやりたいよ。」


呟くように言った。


「そうだな。」


「だが今の俺には、それは言えない。それどころか、明日は1つのミスも許されないなんて、アイツらにプレッシャ-を掛けてしまった。我ながら酷なことを言ってると思ったよ。」


「仕方あるまい。それが君の仕事だ。それに奴らだって、誰1人ここまで来られたことで満足だなんて思っちゃいないんだから。」


「・・・因果な商売だ。」


そう言って、少し苦笑いを浮かべた監督は


「また明日だな。」


と言うと立ち上がった。
< 143 / 200 >

この作品をシェア

pagetop