With you~駆け抜けた時・高1 春&夏編~
㉒
松本哲さんがマウンドに上がる。神奈川の高校球児は全員、この人のボ-ルを打ち返すことを目標にして来たといってもいい。しかし、ここまで誰一人、それを成し遂げられることなく、ついにそのチャンスを持つのは私たちのチ-ムだけになった。
「いよいよ・・・だな。」
松本くんが私の横で、じっとお兄さんの投球練習を見つめている。
「どんな気持ち?」
「昂ってる。」
私の問いに松本くんは短く答える。
「今朝さ。」
「うん?」
「母親に怒られたんだ。」
「えっ?」
「今日はテレビ見られない、どっちかを応援するなんて出来るはずもない。なんであんた、お兄ちゃんと一緒の高校行かなかったのって。全く今更だよな・・・。」
そう言って苦笑いを浮かべる松本くん。
「でも親の立場からすれば、それが当たり前だよな。どっちが勝ったって、手放しでは喜べないんだから。申し訳ないことしちゃったかなって、僕も今更ながら思っちゃったよ。」
「・・・。」
「母親には辛い思いをさせることになる、だけど僕は哲兄とどうしても真剣勝負がしたかった。入学した時には、それが実現出来るか、自信の欠片もなかったけど、こうして現実になった以上、僕は全力で兄貴にぶつかって、そして必ず勝つ。」
「松本くん・・・。」
私たちは顔を見合わせる。
「木本さん。」
「うん?」
「見てて・・・くれ。」
私の顔を見つめて、松本くんは言った。その真剣な瞳に、吸い込まれそうになりながら
「うん。」
私はコクンと1つ頷いた。すると周囲からワッと歓声が上がる。
「大宮、ナイスバッテング!」
その声にハッとしてグラウンドに目を向けると、トップバッタ-の大宮くんが松本投手の足元を抜くセンタ-前ヒットで出塁して、ベンチに向かって、手を上げている。クールな彼にしては珍しい。
私は慌ててスコアブックにヒットのマークを記入する。
続く東尾さんは、当然送りバントかと思ったけど、監督のサインはなんと「打て」。
私たちも東尾さんもびっくりしたけど、ボールボールと続いた3球目を狙い打った打球音はこれまた松本哲さんの足元を抜くセンター前ヒット。
盛り上がる私たちに
「アイツ、珍しく力んで、ボールが上ずってるな。」
キャプテンの声が聞こえて来る。
「叩くなら今だな。」
そう言い残して、キャプテンはネックストバッターボックスに向かった。
「いよいよ・・・だな。」
松本くんが私の横で、じっとお兄さんの投球練習を見つめている。
「どんな気持ち?」
「昂ってる。」
私の問いに松本くんは短く答える。
「今朝さ。」
「うん?」
「母親に怒られたんだ。」
「えっ?」
「今日はテレビ見られない、どっちかを応援するなんて出来るはずもない。なんであんた、お兄ちゃんと一緒の高校行かなかったのって。全く今更だよな・・・。」
そう言って苦笑いを浮かべる松本くん。
「でも親の立場からすれば、それが当たり前だよな。どっちが勝ったって、手放しでは喜べないんだから。申し訳ないことしちゃったかなって、僕も今更ながら思っちゃったよ。」
「・・・。」
「母親には辛い思いをさせることになる、だけど僕は哲兄とどうしても真剣勝負がしたかった。入学した時には、それが実現出来るか、自信の欠片もなかったけど、こうして現実になった以上、僕は全力で兄貴にぶつかって、そして必ず勝つ。」
「松本くん・・・。」
私たちは顔を見合わせる。
「木本さん。」
「うん?」
「見てて・・・くれ。」
私の顔を見つめて、松本くんは言った。その真剣な瞳に、吸い込まれそうになりながら
「うん。」
私はコクンと1つ頷いた。すると周囲からワッと歓声が上がる。
「大宮、ナイスバッテング!」
その声にハッとしてグラウンドに目を向けると、トップバッタ-の大宮くんが松本投手の足元を抜くセンタ-前ヒットで出塁して、ベンチに向かって、手を上げている。クールな彼にしては珍しい。
私は慌ててスコアブックにヒットのマークを記入する。
続く東尾さんは、当然送りバントかと思ったけど、監督のサインはなんと「打て」。
私たちも東尾さんもびっくりしたけど、ボールボールと続いた3球目を狙い打った打球音はこれまた松本哲さんの足元を抜くセンター前ヒット。
盛り上がる私たちに
「アイツ、珍しく力んで、ボールが上ずってるな。」
キャプテンの声が聞こえて来る。
「叩くなら今だな。」
そう言い残して、キャプテンはネックストバッターボックスに向かった。