With you~駆け抜けた時・高1 春&夏編~
「それにしても、ここで哲を潰し損なったのは痛かったな。」


「えっ?」


「こんなチャンスを何回もくれるようなピッチャーじゃないからな、アイツは。それに西くんと省吾で1点も取れなかったのは、白鳥くんにはショックだったろう。期待するなって言う方が無理だからな。この後のピッチングに響かなければいいが・・・。」


喋り続けるその人に


「失礼ですが、OBの方ですか?」


久保くんは尋ねる。


「君は何年生だ?」


逆に問い返して来た男性に


「1年です。」


久保くんは答える。


「そうか。俺は君らより10年程前に明協野球部にいた者だ。」


「やはりそうでしたか。本日は応援、ありがとうございます。」


御礼を言った久保くんに


「まぁOBであることは確かなんだが、純粋に後輩たちの応援に来たかと言われると、これがなかなか微妙なところでな。」


OBは複雑な表情を浮かべた。


2回表、先頭打者は大ピンチを切り抜けた松本さん。


「初球の入り方に気を付けた方がいいな。」


「えっ?」


「ああ見えて、哲は結構カッカするタイプなんだ。結果的に0に抑えたとは言え、いきなりあんなピンチに遭遇させられたんだ。かなり熱くなってるはずだからな。」


スタンドで先輩がこんな言葉を発してることは、私たちはもちろん知る由もなかったが、初球に村井さんは慎重に外角の変化球を要求した。少しボール気味にも見えたその遠い球を、松本さんは待ってましたとばかりに右方向に。打球は飛び付いたキャプテンのミットをあざ笑うかのように一塁線を抜いて行った。ライトの東尾さんが打球に追いついて、振り向いた時には、松本さんは悠々と2塁に到達していた。


「流し打ちか。以前のアイツなら、あんなことがあった後の打席ではレフトスタンドにしか意識が行ってなかったが・・・成長したな。」


スタンドで先輩が感心している。ノーアウト2塁、松本さんに劣らぬ強打を誇る5番の高橋さんを迎えて、今度はこちらがピンチだ。


(まさか初球からあのボールを狙い打たれるなんて・・・。)


白鳥くんが動揺を引き摺ったまま、初球を投じる。


「危ない!」


それはベンチの私の目にもあまりにも甘いボールだった。高橋さんのバットは一閃、凄まじい金属音を残したその打球は、あっという間にレフトスタンドに突き刺さっていた。


松本さん、更には高橋さんと相次いでホームベ-スに戻って来る姿を、私たちもグラウンドのナインたちもやや茫然と見守るしかなかった。
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