With you~駆け抜けた時・高1 春&夏編~
内野陣がマウンドに近寄って行く。


「すまん、完全な失投だ。」


俯き加減の白鳥くんに


「どんまい。」


松本くんが声を掛ける。


「結果が出てしまったものは仕方がない。気を取り直して行くぞ。」


「はい!」


キャプテンの声に応えると、集まっていた内野陣が各ポジションに散る。その途中、松本くんはチラリとお兄さんに視線を送ると、松本投手の方も彼の方を見ていた。一瞬視線が重なった兄弟だっだが、すぐにどちらともなく目を逸らした。


後続は危なげなく抑えた白鳥くんだったが、わずか2球で失った2点は、県下屈指の好投手松本哲相手だけに痛すぎる失点であった。


2回裏、こちらの打順が下位だったこともあるが、初回が嘘のように、松本さんはすっかり落ち着いてバッタ-を打ち取って行く。更に3回には前の打席で連打を浴びた大宮くんと東尾さんを目の覚めるような快速球で連続三球三振に切って取った。


「正直、初回とは別人だ。かすりもしやしねぇ。」


ベンチに戻って来て、大宮くんは吐き捨て


(初回、俺がせめて犠牲フライを上げられていれば・・・。)


その姿を見ながら、松本くんが唇を噛む。


「早めに先制点を挙げて、試合の主導権を握り、そのまま押し切る。御崎高と哲がもっとも得意としている勝ちパタ-ンだ。逆に言えば、明協としては絶対にそのパタ-ンにはまらないようにしなきゃならなかったんだが・・・苦しい戦いになった・・・。」


スタンドの先輩の言葉に、隣に座る久保くんも頷くしかない。


(なんとか突破口を・・・。)


デ-タ分析担当として、久保くんも必死にマウンドの松本投手を目をこらすように見つめるが、その前でこちらのバッタ-が次々と打ち取られて行く。


5回、6回・・・試合は淡々と、つまり完全な御崎ペースで進んで行く。御崎高強し・・・スタンドの空気が段々その思いに染まって行くのを、私はひしひしと感じる。


(やっぱり御崎高には、松本哲さんには勝てないのかも・・・。)


私も正直、そんな思いに沈みつつあった。
< 151 / 200 >

この作品をシェア

pagetop