With you~駆け抜けた時・高1 春&夏編~
(これ以上、絶対に点はやらない。)


8回のマウンドに立った白鳥くんの闘志は、依然衰えない。


「いいピッチャ-だな。」


スタンドでは先輩が、感に堪えないという口調で言う。


「2点は失ったが、そのあとは、今年の春の選抜準優勝校の御崎相手に一歩も引かないピッチングをしている。ボ-ルのスピ-ドも哲に決して引けをとってはいない。今回は相手が悪かったが、まだ1年生だということを考えれば、末恐ろしいピッチャ-だ。」


「相手が悪かったって・・・試合はまだ終わってません。」


久保くんがやや色をなすと


「そうだったな。まだ試合は終わったわけじゃない、失礼した。」


先輩は苦笑いを浮かべると、軽く久保くんに頭を下げた。


結局、この回も白鳥くんは御崎打線を無得点に抑え、マウンドを降りる。


「大した1年生だ。」


御崎ベンチで、高橋捕手がやや呆れ気味の声を上げる。


「相模の小林雅則と東海の矢代剛、そしてあの白鳥がアイツらの世代の県内三羽烏だそうだが、俺が見る限り、白鳥がNO1だな。」


そう答えた松本投手に


「相手ピッチャ-を褒めるなんて余裕だね、哲。」


マネ-ジャ-の五十嵐さんが声を掛ける。


「いいピッチャ-なのは本当だからな、来年はきっと神奈川NO1のピッチャ-と呼ばれてるだろう。」


「哲・・・。」


「ただし、今年は無理だ。後2イニングでそれを証明してやる。」


そう言い残すと、松本さんはベンチを出た。


8回裏、この回は7番からのいわゆる下位打線。


「この炎天下で投げ続けているんだ、松本哲にも疲れがないはずはない。とにかく食らいついて行け、絶対に諦めるな。何度も言うが相手は同じ高校生なんだぞ。」


監督の檄にも力が入る。だけど、残念ながら力の差は如何ともし難い。7番の後藤さんは全く衰えの見えない松本投手の速球に手も足も出ず。


「大宮、初回によくあの球打てたな。」


呆れ顔で言う佐藤くんに


「初回だったからだよ。」


自信家の大宮くんが自嘲気味に答える。8番の栗田さんも簡単にあしらわれて、あっと言う間にツーアウト。


「9番ピッチャ-白鳥くん。」


「白鳥くん、お願い。なんとかして。」


思わず声が出る。白鳥くんだって、ずっと力を振り絞って投げているんだ。そんな彼にバッティングまで期待するなんて、酷なのはわかっているけど、でもこの状況でピッチャ-ながら好打者の白鳥くんの登場なのだ。


「任せとき。」


私の声に軽く手を挙げて応えると、白鳥くんは応援席の徹フリ-クからの声援を背に打席に入った。
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