With you~駆け抜けた時・高1 春&夏編~
白鳥くんを打席に迎えても、松本投手の表情は変わらない。振りかぶって1球目、高めの速球に白鳥くんはバットを出してファール。2球目は空振り。あっと言う間にノーボ-ルツーストライク。もはやこれまでかと思われたが、そこから白鳥くんは粘る。バットを短めに持って、懸命にバットにボールを当てて行く、ファール、ファール・・・監督が先ほど出した「食らいついて行け」という指示をピッチャ-の白鳥くんが必死に実行している。


「徹・・・。」


「あの野郎・・・。」


その懸命な姿に、大宮くんも佐藤くんも、もちろん私も胸をつかれる。当初は余裕だった松本投手の表情も、なかなか振り切れない白鳥くんに対して、険しさが増して行く。


気が付けば投球は12球目、カウントは2ボール2ストライク。ここで松本投手が高橋捕手からのサインに首を振った。1度、2度、3度・・・。


「哲が高橋くんのサインにあんなに首を振るのは珍しいな。」


「ええ・・・。」


スタンドからも驚きの声が上がる中、ようやく5度目のサインに頷いた松本投手が振りかぶって投じたボ-ルに対して、白鳥くんのバットは空を切った。空振り三振、歓声とため息が交差する中、松本投手はホッと1つを息をつくとマウンドを降り、白鳥くんは悔しそうな表情で打席を後にした・・・まさにその時だ。


「今のボール。」


戦況を私たちより少し後ろで見ていた松本くんが、突然身を乗り出して来たかと思ったら


「最後のボール、兄貴、何投げた?」


最後のボールの球種を私たちに問い掛けてくる。突然のことに私たちが答えられないでいると


「スライダ-だろう。」


とキャプテンが答える。


「スライダ-?」


「これまでのデータでは、松本投手がスライダ-を投げたことはないはずです。」


松本くんと私が、疑問を呈すると


「アイツは中学の頃は練習中に遊びで投げてたんだ。もっとも当時は変化球なんか投げてるのが、監督にバレたら大目玉だったから、俺しか知らなかったがな。」


キャプテンは続ける。


「そうだったんですか・・・。」


「確かに今まで試合で投げたのは見たことがなかったが、ずっと練習してたんだな。そんな秘密兵器を隠し持ってたとは・・・。全くとんでもない奴だ。」


苦笑いを浮かべながら言うと、キャプテンはベンチを出る。でも続かなければならないはずの松本くんは、何事かを考えこむように動かない。


「どうしたの?」


心配になって尋ねると


「いや、なんでもない。」


ハッとしたように私を見た松本くんは、慌てたようにポジションに向かった。
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