With you~駆け抜けた時・高1 春&夏編~
敬遠策に、御崎高応援席からはブーイングが起こるけど、それは甘んじて受けるしかない。こちらとしては最善の策を講じていくしかないのだから。


松本さんが歩いて、一死1,3塁。勝負強さには定評がある高橋さんが打席に入る。


「高橋は強打者だが、足は速くない。ゴロを打たせて、ゲッツ-で仕留める。それが、こちらのベストのシナリオだ。」


伝令の澤田さんの言葉に、キャプテン以下、マウンドに集まった内野陣が頷く。


「もしここで1点でも許せば、ほぼ勝ち目はなくなる。もう1つのミスも許されない、しまって行こう。」


「はい。」


キャプテンが最後に締めて、澤田さんがベンチに下がり、内野陣も各ポジションに戻ろうとするが


「省吾。」


とキャプテンが松本くんを呼び止めた。


「集中だ、今は余計なことを考えずに、目の前に飛んで来た打球を確実に処理する。それだけを考えて行くんだ。」


振り返った彼に、キャプテンは言い聞かせるように言う。


「わかりました。」


松本くんは固い表情で頷いた。キャプテンがファーストのポジションに戻ると


「ゲッツ-策はわかるが、あんな緊張してちゃ、省吾の守備がなんとも不安だな。」


松本投手がやや冷やかし気味に言って来る。


「ここ1番での省吾の集中力と底力を一番よくわかってるのは、松本、お前だろ。」


それに対して、西さんは表情1つ変えずに言い返す。ハッとした表情になる松本さんに


「そしてマウンドにいる白鳥徹。アイツのここ1番でのボールは、そんな簡単に打たれはしない。凄まじいばかりのキレと威力だ。そして俺たちはあの2人の力でここまで勝ち上がって来たんだ。」


キャプテンは言葉を繋ぐ。


「西・・・。」


「全く、我が後輩ながら、恐ろしい1年生だ。」


そう言うと、キャプテンはグッと腰を下ろして、守備態勢に入った。


改めて状況は、0-2で迎えた最終回9回表、御崎高校の攻撃。1死1.3塁、バッタ-はこの試合で先制ホームランを打っている5番の高橋さん。絶体絶命の状況と言っていい。


そんな状況で、白鳥くんはマウンドでフッと1つを息を吐いた。


(1点を失えば、まず勝ち目はない、か・・・。)


先ほどの澤田さんの言葉を反芻すると、改めて周囲を見回した。そしてベンチでいつの間に立ち上がり、祈るように胸の前で手を合わせている私の姿を目にする。


(その姿・・・女子の祈りのポーズ、たまんねぇ・・・。)


この状況でまさか白鳥くんがそんなことを考えてなどとは、夢にも思わない私は、マウンドでチラリと笑みをこぼしたのが見えて、ビックリする。
< 156 / 200 >

この作品をシェア

pagetop