With you～駆け抜けた時・高1 春＆夏編～

（安心しろ、木本さん。絶対に1点もやらん。）


私に心の中で、そう呟くと、白鳥くんは第1球を投じる。


「えっ！」


次の瞬間、私は思わず悲鳴に近い声を上げてしまう。その投球を捉えた高橋さんの打球が、凄まじい金属音を残して、レフトスタンドに向かって、飛んで行ったからだ。監督以下ベンチのみんなも総立ちになる。だけど、打球はレフトポールからわずかながら左に逸れて行く。ファールだ。


「おいおい、ヒヤッとさせるなよ・・・。」


隣の佐藤くんの言葉は全く同感。ホッとして、また白鳥くんに視線を向ける。


（白鳥くん・・・。）


その白鳥くんは、全く動じた様子を見せずに、村井さんのサインに頷く。投じられた2球目、再び高橋さんの打球は快音を残してレフトへ。しかし今度は1球目より大きく左に切れて行く。これでツーストライクナッシング、バッタ－を追い込んだ。


そして3球目、前2球同様に内角に投じられたボールに対して、今度こそとばかりに高橋さんのバットが振り出される。だけど・・・。


「ストライク、バッタ－アウト！」


球審の声が響く。高橋さんのバットが空を切った、三振だ。


「よし！」


私は拍手をし、明協応援席から大歓声が上がる。


「長打が出やすい、しかも高橋くんが得意の内角をあえて1、2球目と攻めて、そして3球目は同じようなコースからボールを落とした。完璧な攻めだな。」


スタンドで先輩がうなるのに


「テッチャンの球威がなければ、成立しない攻めです。並みのピッチャ－なら初球をスタンドに放り込まれてます。」


久保くんが応じる。


「確かに。それも9回まで投げて来てだからな。大したものだ。」


これでツーアウト。ひとやま超えた感はあるけど、油断は出来ない。6番バッタ－は、バット短く持って、懸命に食らいついて来たけど、白鳥くんは全く動じることなく、あっという間に追い込んで、そして空振り三振に切って取った。


「ナイスピッチング、白鳥くん！」


私は思わず万歳。その姿を見て、白鳥くんがニコリと笑みをこぼすと、スタンドからはキャ－と黄色い声が上がる。


「だろ。」


一方、絶好のチャンスを逃して、やや茫然としている松本さんに、一言言うと、キャプテンが小走りでベンチに去って行く。


（この回はやられたが、2点あれば十分だ。お前たちには悪いが、俺たちの5季連続の甲子園はもう目の前だ。）


その後ろ姿を睨みながら、松本さんは思っていた。