With you~駆け抜けた時・高1 春&夏編~
(まさか、こんなことになるとはな・・・まぁいい。ここでお前に打たれるわけにいかんし、絶対に打たせん。勝負だ、省吾。)


(哲兄、全力で勝負だ!)


心の中で、会話を交わして、兄弟はお互いをキッと見据える。


(松本くん・・・。)


私もじっと見つめる中、松本投手が第1球を投じる。もちろん得意のストレ-ト、待ってましたと松本くんもバットを振り出すけど、空を切る。


(松本さんのボールのスピ-ドも衰えてないけど、松本もタイミングは合ってる。)


味方のバッタ-を信じて、延長戦に備えて、ベンチ前で肩を作る白鳥くんは分析する。


2球目、同じくストレ-トを今度はバックネット直撃のファール。確かにタイミングは合ってはいるように見えるけど、ツーストライクナッシングと追い込まれてしまった。


(これで・・・決まりだ!)


3球目、松本投手が投げ込む渾身のストレ-トを松本くんもフルスイングで応じるが、ファ-ル。実はその直前、松本くんがスッとバットを少し短く持ち直したことに私は気付いていた。なんとしても食らいついていく、松本くんの強い気持ちが伝わって来る。


そんな松本くんに対して、松本投手もストレ-トを続ける。自分の最大の武器で、弟を三振に切って取って勝利する。神奈川NO1のピッチャ-として、また兄としてのプライドが感じられた。


決着は・・・つかない。意地と意地のぶつかり合いが、勝負を長引かせていく。ファールの合間にボールが挟まり、ついにカウントは3ボール2ストライクのフルカウント。投球はなんと14球目だ。


「ここまで松本さん、全部ストレ-トだよ。」


「こうなったら、最後までストレ-トだろうな。」


私たちはもう固唾を飲んで見守るしかない。


「哲、アウトは誰からとっても同じだ。それを忘れるな。」


スタンドでは、先輩が絞り出すような声で言う。


「先輩・・・。」


驚いたように振り向いた久保くんに構わず


「お前の気持ちはわかるが、省吾に拘るな。ここで省吾を歩かせても、それは決して逃げじゃない、勇気ある撤退だ。」


先輩は松本投手に訴えるように続ける。だけど、その声は当たり前だけど、松本さんには届かない。


(ここまで省吾に手こずらされるとは・・・。)


松本投手は、一瞬苦笑いのようなものを浮かべたが、すぐに表情を引き締める。


(高校入学からわずか3ヵ月で、よくここまで成長したな。大したもんだ。だが俺は絶対にここで打たれるわけにはいかないんだ。アイツとの約束の為にも・・・。)
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