With you~駆け抜けた時・高1 春&夏編~
全てが終わり、制服に着換えた私は、なぜかまた、グラウンドに足を向けていた。


(綺麗な夕焼けだな・・・。)


歩いて行くと、西に傾き始めていた夏の陽が、いよいよその姿を没しようとしているのが目に入って来る。鮮やかな夕陽を眺めながら、グラウンドに足を踏み入れると、もう誰もいないと思っていたその場所には、ひとりの男子の後ろ姿が。それが誰かわかった瞬間、私は足を止める。そのまま彼の後ろ姿を見つめる私の胸の鼓動が忙しくなる。


(松本くん・・・)


グラウンドの中で一番高い所にあるピッチャ-ズマウンドに立つ彼に、なぜか呼び掛けること出来ないまま、固まっていると、ふと気付いたように振り返った彼が


「木本さん。」


私の姿を認めて、ニコリと微笑んで、私の名を呼んでくれる。


「帰らなかったの?」


「な、なんかまだ帰りたくなくて。」


答える声が少し上ずってるのが、自分でもわかる。


「そっか、実は僕もなんだ。」


そう言いながら、松本くんが私の前に立つと、次に瞬間、私は思わず俯いてしまう。


「どうしたの?」


「ううん、なんでもない。」


不思議そうに尋ねてくる彼に、私は懸命に平静を装うけど、ホントはなんでもないなんて、とんでもない。さっき、わかった事実に、私は今、動揺しまくってるんだ・・・。


「木本さん。」


「は、はい。」


「本当に勝ったんだよね?僕たち・・・。」


「えっ?」


「だって、『神奈川県代表になって甲子園に出場する』。そんな日が来ることを夢見て、高校生になって、まだ4ヵ月も経ってないのに。練習試合にもなかなか勝てなくて、なかなかチ-ムがまとまらなくて、不安一杯だった僕たちのチ-ムが、あの無敵と言われた御崎高校を破って、県大会に優勝したなんて・・・。」


そんなことを言い出した彼に


「確かに信じられないよね。でもさっきまで、ここでみんなで喜びを分かち合って、私なんかみんなに胴上げしてもらって、そして聡太先輩、あなたの一番上のお兄さんに祝福していただいて・・・・みんな間違いなく現実なんだよ。私たちは、明協高校野球部は神奈川県代表になったんだよ。」


私は懸命に言葉を紡いだ。そんな私の顔を見つめていた彼は


「そっか・・・そうだよね。哲兄から打ったサヨナラホ-ムランの感触は、ちゃんとこの手に残ってる。やっぱりあれは間違いなく現実だ。」


そう言って笑った。
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