With you~駆け抜けた時・高1 春&夏編~
哲は立ち直った。そしてまた、真摯にそして夢中になって、野球に取り組むようになってくれた。


「別に真面目にお付き合いするんなら、恋愛するなんて言ってないからね、私。」


「わかってるよ。でも今は恋愛にうつつを抜かしてる暇はない。野球のことだけ考えて、野球だけを全力でやりたいんだ。神奈川県の全高校球児が、俺を目標にして来るなら、それに絶対負けないように自分を鍛え直したいんだ。」


そう言い切った哲を見て、私はもう大丈夫だと思った。そして、その通り、私たち御崎高校は危なげなく夏の県大会を2年連続で制覇。3季連続の甲子園出場を果たした。


その県大会の最中、私は中学卒業以来、久しぶりに西くんと再会した。明協高校と4回戦で対戦したのだ。


2年ぶりに見た彼は、私が知ってる時より、背がグッと伸び、また身体つきも男らしくなっていた。懐かしく、また心ときめくものを感じたが、いかに昔のクラスメイトとは言え、他校の選手とマネ-ジャ-が話す機会などあろうはずもなかった。


2年生ながら、レギュラ-キャッチャ-を務める西くん。2回の攻撃で、6番打者として打席に入る前、彼は私に軽く会釈してくれたような気がした。私が思わずそれを返すと、そのまま打席に入り、哲と相対する。2人も卒業以来、連絡を取っていなかったはずだ。


哲の顔に緊張が走る。少なくても県大会で、彼がこんな表情をするのは、久しぶりだった。対する西くんの表情はどうだったのだろう。私に背を向けてるから、それは窺う余地もない。注目の第一打席、力みかえった哲は全くストライクが入らずに、ストレ-トの四球で西くんを歩かせてしまう。大袈裟に天を仰ぐ哲に対して、淡々とバットを置き、一塁に歩く西くん。その姿は好対照だったが、明協に哲が許したランナ-はこれが最初で最後になった。


この後、後続に1本のヒットも、1人のランナ-の出塁も許さなかった哲はノーヒットノ-ランで明協高を抑え込んだ。西くんは2打席目以降は連続三振。バットにボールがかすりもしなかった。


得意満面の哲に対し、西くんは唇をきゅっと噛み締め、そんな哲を一瞥すると、グラウンドに一礼して、ベンチへ消えて行った。その姿を、私はなんとも言えない気持ちで見送った。


こうして2度目の夏の大会に臨んだウチのチ-ムはベスト8まで勝ち進み、更に4季連続の甲子園となった翌春の選抜大会は準優勝で涙を呑んだ。決勝点は哲の暴投による失点だった。


「この借りは、必ず夏で返す。」


私にそう宣言して、哲はグラウンドに背を向けた。
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