With you~駆け抜けた時・高1 春&夏編~
それから2週間ほど経った。


「おい、松本どうした?気合入れて投げろ!」


ある日のブルペン、キャッチャ-の高橋航が、やや語気を荒くして、ピッチャ-の哲に返球する。航の強いボールを受け取って、哲は1つ頷くと、投球動作に入り、ボールを投げ込むけど


「ダメだ。気が入ってないんだよ。キャプテンがそんなんで、他の選手に示しがつかないだろう!」


「お、おぅ。すまん。」


ここ数日、哲の様子がおかしい。なにかに悩んでいるようで、動きに精彩がない。


(この前はあんなに張り切っていたのに・・・。)


結局、哲の様子は変わらぬまま、この日の練習は終了。


「恵美。」


「うん?」


「松本はどうしちゃったんだ?」


ファンの女子の歓声にも、見向きもせず、俯き加減に引き上げて行く哲の後ろ姿を見ながら、航が心配そうな声を出す。


「わかんないよ。こういう時こそ、女房役の航の出番じゃないの?」


「ダメだよ。俺がなに聞いたって、『大丈夫だ』『何でもない』を繰り返すばかりで・・・。大丈夫でも何でもなくないのは明らかなのに・・・。」


航はやや苛立ち気味に言う。


「ここは真の女房役である恵美が、松本の気持ちを聞いてくれねぇか?」


「ちょっと真の女房役って何よ?私と哲がそんな間柄じゃないってことくらい・・・。」


「カレカノとか、そんな意味じゃない。エースであるアイツを、マネ-ジャ-としてずっと支えて来たのは恵美なのは間違いない。それにお前たちは中学以来の仲だ。今のアイツの心の内に分け入って行けるのは、恵美しかいないだろうよ。」


ここで私たちが言い争っていても仕方がない。選手たちが暮らす寮は、学校と専用通路で直結していて、部外者はもちろん、マネージャーと言えども、立ち入ることが出来ない。私は急いで着替えると、この通路の前で、哲を待ち受けることにした。


少しすると、他の選手と離れて、ひとりポツンと歩いて来る哲の姿が見えて来る。私を見て、ハッとしたような表情になった哲だが、すぐに私に近付いて来る。


「恵美・・・。」


「ちょっといい?」


「・・・ああ・・・。」


一瞬躊躇ったあと、頷く哲。話ができる場所に移動して、向き合った途端


「スマン。」


といきなり頭を下げてくる哲。


「ど、どうしたの?」


「この間、あんな偉そうなこと言ったのに、俺・・・。」


流れる沈黙。一体、なにを言い出すのか?私は次の哲の言葉を待った。
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