With you~駆け抜けた時・高1 春&夏編~
「好きな子が・・・出来たんだ。」


しばらく躊躇した後、口にした言葉がこれだから


「えっ?」


私は思わず、聞き返してしまった。


「2週間くらい前からかな。」


哲が語り始める。


「練習を見に来てくれてる子がいるんだ。」


「ウチの生徒?」


「ああ。リボンの色から見て、1年生だ。その子に・・・一目ぼれした。」


そう言うと、照れ臭そうに視線を逸らす哲。その仕草を見て、私は思わず吹き出した。


「笑うんじゃねぇよ。」


今度は怒る哲に


「ごめん、ごめん。でも前は女の子とっかえひっかえしてた奴が、告りもしないで、ただ悶々としてるだけだなんて、随分変わったなって思ってさ。」


答える私。


「女子にちゃんと向き合えって、説教してきたのはお前だろ。」


「うん、そうだね。だから、そんな哲が嬉しいよ。」


私が笑顔でそう言うと、哲はまた恥ずかしそうにそっぽを向いたけど、すぐにまた表情を固くして


「だけど、大事な最後の県大会を控えているのに、こんなことで心乱して、練習に集中出来てない自分が情けねぇ。」


なんて吐き出すように言うから


「ううん、それは違うよ。哲。」


私は首を振った。


「いいじゃない、恋をするって素敵なことだと思う。こんな時に不謹慎だとか、情けないとか恥ずかしいとか思う必要は全然ないと思うよ。」


「恵美・・・。」


「その子の名前とか、クラスとかはわかってるの?」


「いや。」


「よしよし。それじゃ恵美さんに任せなさい。」


私がそう言って笑うと、哲は素直に頷いた。


翌日。練習が始まって、少し経つと、哲がそっと私を呼び寄せた。


「あの子だ・・・。」


哲が目立たないように顎をしゃくる方を見ると、いかにも哲好みの清純派少女が、こちらを見ている。


「OK。」


私は小声で答えると、スッと哲から離れた。それから私は、1年生の選手やマネ-ジャ-に探りを入れて、その日のうちに彼女の名前とクラスを割り出し、哲に報告した。


古城純子(こじょうじゅんこ)・・・か。彼女にピッタリの名前だ。」


真面目な顔で、そんなことを言うから、私は思わず笑ってしまったが、すぐに表情を引き締め


「見た目の通り、大人しくて真面目な子みたいだよ。1年生の中では、入学早々人気上昇中らしいよ。」


報告を続けると


「そう、だろうな・・・。」


哲はさもありなんという表情で頷く。


「それで、どうするの?」


「もちろん、告る。」


哲はきっぱり言う。


「おお。じゃぁ、頑張んな。」


励ましてやると


「おぅ。」


哲は力強く頷いた。
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