With you~駆け抜けた時・高1 春&夏編~
(ま、うまく行くでしょ。)


帰り道、電車に揺られながら、私は思っていた。哲には言わなかったが、チラチラと観察していた限り、古城さんは明らかに哲目当てで、グラウンドに来ていた。憧れの選手から告られれば、彼女は喜んで頷くはずだ。


あんな可愛い彼女が出来て、哲がラブパワ-でエンジン全開となれば、我が部にとってはも万々歳。甲子園は一気に近付くだろう。らしくなく、ウジウジしてたけど、告ると決めたからには、哲もパシッと決めるはずだ。私は安心していた。


ところが・・・数日後、明らかに落ち込んだ哲から顛末の報告があった。わざわざ彼女のクラスまで乗り込んで、呼び出しを掛け、勇躍告ったものの、古城さんの答えは


「ごめんなさい。」


だった。


「私みたいな地味で、なんの取柄もない子が、松本先輩とお付き合いなんて、とんでもありません。分不相応にもほどがあります。」


そう言うと、「失礼します」とペコリと一礼すると、逃げるように去って行っちゃったんだそうだ。


「随分、自分に自信のない子なんだね。」


「単に体よく断られただけのような・・・。」


はっきり言えば、そういうことなんだろうけど、そうだねとダメを押して、哲を余計落ち込ませてもなんなので


「まぁ仕方ないよ。人間諦めが肝心だよ。」


と言ってみるが


「本気で好きになったのに、そんな簡単に諦めがつくかよ。」


確かにそれも正論。だけど


「哲の気持ちもわかるけど、でもそんな取り付く島もない感じじゃ・・・。とりあえずは一回様子見るしかないと思うよ。」


結局はそう言って宥めるしかなかった。


ところが、話はこのままでは終わらなかった。哲が、古城さんの教室まで乗り込んで告ったので、その現場の目撃者が複数いて


「あの松本哲さんが振られた。」


と、ニュ-スとなって、校内を駆け巡ることになってしまった。それで哲が恥ずかしい思いをするのはまだしも


「松本さんを振るなんて、何様のつもり?」


「だいたいなんで、あんな1年生が松本さんに告られるのよ。」


校内の哲ファンの憤激と嫉妬が、一身に古城さんに向けられることになり、彼女が怖いお姉さま方に呼び出されたとか、様々な嫌がらせを受けているなどという噂が、まことしやかに流れ出した。


(まさか、こんなことになるなんて・・・。)


よもやの事態に、私は蒼くなった。
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