With you~駆け抜けた時・高1 春&夏編~
いろいろなことがありながら、私たちの高校生活最後の年は1日1日と過ぎて行く。そして、それは私たちの人生にとって、大きなターニングポイントの1つである大学受験が迫って来ていることを意味する。


友人やクラスメイトの中には、既に部活を卒業したり、退部したりして、完全に受験モードにシフトした人もいる一方、部の主力である最上級生として、有終の美を飾るべく、日々を過ごしている人たちも、少なくない。


私たち野球部にとっては、7月の県大会、そしてそれに勝ち抜いて、8月の甲子園大会、そして優勝を。目標は1つしかない。


(期末試験が終われば、すぐに県大会。最後の夏がいよいよ始まるんだな。)


慌ただしく動き回りながら、私はフッとそんなことを思う。


GWくらいから始まった対外練習試合が、6月に入り本格化して来ると、悩める少年だった哲の顔もいつのまにか、ピリッと締まり、もう完全な臨戦態勢。


「ナイスボ-ル!」


この日も、ブルペンで哲のボールを受けていた航が声を上げると、哲が嬉しそうに笑みを浮かべる。それを見て


「キャ-!」


とギャラリ-の哲フリ-クが歓声を上げる。相変わらずの光景だったが、でもそのフリ-クの中に純ちゃんの姿はない。


あの騒動もすっかり収まって、私も彼女とはたまにLINEのやり取りをするくらいになった。やっぱり学年が違うと、普段はなかなか顔を合わせることもないし、彼女も徐々にクラスに友人が出来ているようだ。


(哲には可哀想だったけど、まぁこれでよかったんだよ。)


フリ-クたちの歓声を、涼しい顔で受け流して、投球練習を続ける哲を横目で見ながら、私はブルペンを離れた。そう、全ては終わったこと、私はすっかりそんな気になっていた。


翌日、この日は授業も半ドンの土曜日。私と哲は、午後の練習を抜けて、顧問の先生と一緒に県大会の組み合わせ抽選会に赴いた。全国有数の200近い高校が参加する神奈川大会、会場は熱気に包まれていた。


そして私の目から見ても、この日の主役は哲だった。取材陣のカメラも、他校の参加者の視線も、哲が一身に集めていたと言っても、決して過言ではなかった。普段、身近に接している彼からは、決して感じないオーラがはっきりと感じられた。


(今更だけど・・・哲ってやっぱり凄い選手なんだな・・・。)


思わず、そんな思いで彼を見つめてしまった。
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