With you~駆け抜けた時・高1 春&夏編~
振り向くと、大宮康浩が厳しい表情で、こちらを見ている。


「気の強い女も悪くないと思って、優しくしてりゃ、付け上がりやがって。お前、何様のつもりだ。」


「別に何様のつもりでもないよ。私は野球部のマネージャーとして、チームワークを乱すような人に、入部して欲しくないと思ってるだけ。」


「何を!」


なんかイキり立ってる大宮康浩に、私は冷静に言い返す。


「昨日の君のプレー、確かに凄いと思った。君のスピードは、少なくともウチの部の中では、ずば抜けてるよ。ひょっとしたら、すぐにレギュラーになれるかもしれない。」


「当たり前だ、そんなの。」


「君は、部活のオリエンテーションの時の、西キャプテンの言葉、聞いた?」


「さぁ、興味なかったからな。」


「そう。あの時、キャプテンはこう言ったの。『上手い、下手は関係ない。野球が本当に好きな部員を求めてる』って。私はその言葉に心から共鳴した。だって私は選手じゃないから、上手いとか下手の範疇にも入れない。でも野球が好きっていう気持ちは、選手のみんなにも負けないつもりだから。そして、監督も部長も先輩達も、一緒に入った同級生達も、みんな野球が好きな人達だと、私は思ってる。」


「・・・。」


「でも君は違うよね。昨日、君は言ってた。『野球なんて、かったるいからもう辞めようと思ってた』って。今日の君の態度を見て、それが本心だって、よくわかった。私達は一緒には、やれないと思うよ。」


そう言って、私は大宮康浩を見た。


「お前、何偉そうに言ってんだよ。なんか、スゲェムカつくんだけど。」


と言って来たのは、横にいた別のチャラ男くん。


「それはごめんなさい。じゃ、私はこれで。」


軽く受け流して、頭をちょこんと下げて、私は今度こそ、出口に向かう。


「お前、ちょっと待てよ!」


と罵声が飛んでくるけど


「いいよ、ほっとけ。」


それを制する大宮康浩の声がする。私は、そのまま振り返りもしないで、教室を出た。


「ミッチャン!」


すると久保くんと松本くんが、慌てたようにこちらに来る。どうやら、騒ぎを聞きつけて、駆けつけてくれたらしい。


「大丈夫か?」


「うん・・・ちょっと怖かったかな。でも平気。」


松本くんに聞かれて、私は笑顔で答える。


「声掛けてくれれば、一緒に来たのに。」


「ありがとう。でも、別に喧嘩しに来たつもりじゃなかったから。心配掛けて、ごめんね。」


久保くんにそう答えると


「でもアイツ、惜しいな・・・。」


横で松本くんがポツリ。


「そうだね、でも仕方ないよ。」


私の言葉に、2人も頷いた。
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