With you~駆け抜けた時・高1 春&夏編~
「一緒にやってくれるの?」


そう尋ねた私に


「今日の午前中まで、迷ってたけどな。」


と答える大宮康浩。


「自慢のヘアスタイル、バッサリ切るのは抵抗あったんだよ。年頃の男の子としては。」


「・・・。」


「でもお前に言われっ放しなのは、癪だからな。昼飯食って、すぐに切って来た。」


「それはどうも・・・って言いたいとこだけど、学校サボるのは感心しないな。」


「誰のせいだと思ってるんだよ。」


「えっ、私のせい?」


「そうだ、お前のせい。お前が俺の前に現れなきゃ、俺は今更野球なんか絶対やろうとは思わなかったからな。」


「大宮くん・・・。」


その大宮くんの言葉に、私が驚いていると


「安心しろ、サボりは今日だけ。こう見えても俺は真面目な高校生なんだ。」


そう言って、彼はニヤリと笑った。


そんな会話を交わしながら、私と大宮くんがグラウンドに到着すると


「遅ぇよ。」


と罵声が。


「マネージャーが遅刻してんじゃ、話になんねぇだろ。」


とグラウンドをならずトンボを手にした声の主を見て、私はビックリ。


「佐藤くん・・・。」


「ユニフォーム、早く出してくれよ。これじゃ、アップも出来ねぇだろ。」


「えっ?佐藤くん、昼間入部断ったじゃん。」


戸惑いながら、私が言うと


「気が変わったんだよ。」


「は?」


「気が変わって、やっぱり入部することにしたんだ。監督には申告してあるから、ユニフォーム、早く持って来いよ!」


「わ、わかった。」


後で考えると、相当失礼な物言いでアタマに来たんだけど、この時はあまりに意外な展開に、すっかり慌ててしまい、私は備品庫に走る。


そんな私を見送った佐藤くんは


「誰かと思えば、D組のチャラ男じゃねぇか。お前、野球辞めたんじゃなかったのかよ?」


と大宮くんに声を掛ける。


「お前と同じ、気が変わったんだよ。」


「へぇ。やっぱりあのマネージャー目当てか?お前らしいな。」


「最初のうちはな。だが今は、アイツをギャフンと言わせてやりたいって思いの方が強いな。」


「ギャフンってお前、昭和の生まれか?」


そう、からかうように言う佐藤博に


「見返してやりたいと言うより、そっちの方が、今の俺の気持ちにピッタリなんだよ。それよりお前はどうしたんだよ?」


と問い返す大宮康浩。


「俺の方こそ、ちょっと見返してやりたい奴が出来ちまったんでな。」


そんなことを話していた2人に


「おぅ、来たか。」


とグラウンドにやって来た石原監督が声を掛けた。


「はい。」


監督の前では、途端に良い子の大宮康浩は直立で返事をしたけど、佐藤博は苦い顔になっていた。
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