With you~駆け抜けた時・高1 春&夏編~
「ちょっと貸せ。」


試合は5回まで進み、グラウンド整備の為、いったん小休止。私も一息ついていると、突然スコアブックを取り上げられた。


驚いて振り返ると佐藤くんだ。


「ちょっと、なにするの?」


「へぇ、ちゃんとスコアつけられるんだ。」


抗議する私に、半分小馬鹿にしたような口調でそう言うと、佐藤くんはスコアブックに目を落とす。


(なに、コイツ・・・。)


相変わらずの私に対する悪態ぶりに、さすがにカチンと来て、睨むように彼を見ると、もう私のことなど、眼中にないように、じっとスコアブックを見つめている。


その真剣な表情に、私がハッとして、彼を見ていると、いきなり放り投げるように、スコアブックを返して寄こした。


「ちょ、ちょっと。」


度重なる失礼な態度に、頭に来て、大きな声が出そうになるが、試合中だということで、懸命に自分を抑えた。


「だらしねぇな。」


「えっ?」


「いくらなんでも、相手の2番手にひねられてるんじゃな。俺が代わって、出てぇくらいだ。」


「佐藤くん。」


聞こえよがしに、そんなことを言う佐藤くんを、私は慌てて窘めるけど、監督も周囲の先輩も特に取り合わず、佐藤くんは私の側を離れて行く。


すると


「木本、スコアブックを見せてくれ。」


と監督から声が掛かる。


「はい。」


私が手渡したスコアブックを、さっきの佐藤くん以上に、真剣な眼差しで見ていた監督は


「ありがとう。後半も頼むぞ。」


と言って、スコアブックを私に差し戻した。


そして、試合再開。6回表は、星さんが相手をピシャリと抑えると、その裏、ウチの高校は4連打で2点を先取。みんなに混じって、私も大喜びで、手を叩く。


「気が付きやがったか。」


そんな中、佐藤くんがポツンと呟いた。


「何を?」


たまたま横にいた松本くんが、尋ねる。


「あのピッチャー、圧倒的に外角にボールを集めてる。だから、それを狙ってけって、さっきオッサンが指示を出した。」


あの佐藤くん、監督をオッサン呼ばわりは・・・。


「だからみんな、逆方向に打ってるんだな。」


「ああ。」


「佐藤、お前よく気がついたな。」


「アイツのお陰だよ。」


「アイツ?」


「ああ。」


と言って、佐藤くんは私を指差す。


「木本さん?」


聞き返す松本くんに、佐藤くんは黙って頷いた。
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