With you~駆け抜けた時・高1 春&夏編~
結局、リードはしたものの、星さんの後を受けた関口さんが打たれて、試合は逆転負け。


練習試合とは言え、勝ちにこだわるなら、白鳥くんを出したら、どうだったんだろう。


関口さんには申し訳ないけど、今まで練習を見てきて、白鳥くんの方が、ハッキリいって数段いいピッチャーだし、あの速球を試合で見てみたかった。


実際、白鳥くんはブルペンで準備はしていたけど、結局監督は起用せず、集まっていた徹フリーク達にため息をつかせることになった。


しかし、そんな監督の判断を、私がとやかく言えることじゃない。


試合が終わり、私は相手のマネージャーさん達に挨拶したり、審判さんへのお礼、更には後片付けと、また忙しく走り回っていた。


そして監督から、今日の試合の講評を受けたあと、グラウンド整備を行っていた選手達がそれを終え、私に合流してくれた。


「木本さん、このベンチ、もう運んじゃっていいよね?」


「うん。松本くん、お願いします。」


そう答えて、私は自分の作業に向かう。


「よし、やっちまおうぜ。」


そうみんなを促した松本くんが、自分もベンチを持とうとして


「佐藤、そっち持って・・・って、どうした?」


何やら明後日の方を見ている佐藤くんに気付く。


「うん?あ、ああ・・・。」


何やら、心、ここに非ずの返事の佐藤くん。どうしたのかと、彼の視線を追うと、その先には


「木本さん?」


私がいて、松本くんは驚く。


「驚いた。」


「えっ?」


「アイツのつけてたスコアブック、すげぇ見やすかった。アイツのわかる範囲で、いろんな情報が付記されてて、工夫されてる。正直感心した。」


「佐藤・・・。」


「それに、よく働きやがる。」


佐藤くんの私に対する思わぬ褒め言葉を聞いて、松本くんは更に驚いたように彼を見つめる。


「久保。」


そして次に佐藤くんは、久保くんに声を掛ける。


「ひょっとしたら俺は、お前の彼女のこと、とんでもない誤解をしてたのかもしんねぇな・・・。」


そうポツンと呟くように言った佐藤くんに


「やっとわかった?・・・って彼女じゃないし。」


久保くんは答える。


「えっ、お前の彼女じゃねぇの?」


「それこそとんでもない誤解。僕がミッチャンとなんて、畏れ多いお話だよ。」


「つまりお前にもチャンスあるってこと。」


茶化すように言った大宮くんに


「バカ、そんなんじゃねぇよ。お前と一緒にするな。」


佐藤くんは吐き捨てるように言った。
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