With you~駆け抜けた時・高1 春&夏編~
「要するに実力至上主義、結構なことじゃねぇか。」


その日の帰り道、私が監督から聞いたことをみんなに伝えると、佐藤くんが我が意を得たりと言わんばかりに、声を上げた。4人だった私たち1年生の下校に、今は佐藤くんが加わり、そして大宮くんは居たり居なかったり。でも最初の頃は、どうなることかと思った佐藤くんと大宮くんもなんとか仲間に加わってくれたことが、私は嬉しかった。


「オッサンもいいこと言うな。俺が見た限り、上級生の外野手で一目置かなきゃなんねぇなと思うのは河井さんくらい。あの人だってファーストに回るかもしれないし、そしたら俺と大宮はレギュラ-いただきだな。」


と早くも鼻息が荒い佐藤くん。


「内野だって、セカンドの片岡さんとショ-トの栗田さんの守備はすげぇと思うけど、ファーストとサードはろくなのいないぜ。松本も創も十分チャンスあると思うぞ。そしてもちろんピッチャ-は白鳥。となれば、1年全員レギュラ-も夢じゃないぜ。」


「いやいや、そんな簡単じゃないって。」


すっかり興奮してまくしたてている佐藤くんを、たしなめるように久保くんが言う。


「うん。俺も別に今はエースナンバ-にこだわってないし。」


「えっ、そうなの?」


「うん。だって、昔と違って、今は1人のエースがずっと投げ切る時代じゃないし、星さんは素直にいいピッチャ-だと思うし。だからこの夏は、先輩と半々くらいで投げて行ければいいなと思ってるし、だったら背番号1は先輩がつけるべきだよ。」


意外な白鳥くんの謙虚な言葉に、私が驚いていると


「なんだよ。俺達の世代のピッチャ-の中で、神奈川三羽烏と呼ばれているお前が随分欲のないこと言ってるな。」


佐藤くんが不満そうに言う。


「とにかく、オッサンが自分の言葉通りに、俺たちを試合に出してくれれば、結果はおのずと付いて来る。とにかく俺は、なんとしてもレギュラ-になって、松本哲を打ち砕いて甲子園に行く。俺はそれを目標に中学の時から、練習を積んで来たんだ。だから何としても、この夏からレギュラ-にならないと。まぁ見てろ、絶対にライトのポジションは俺がいただく。」


怪気炎を上げる佐藤くんに、白鳥くんと久保くんは苦笑いを浮かべながら、顔を見合わせていたが、私はフッと浮かない表情のまま、黙っている松本くんに気が付いた。
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