With you~駆け抜けた時・高1 春&夏編~
「僕は兄貴たちの影響で、野球を始めたんだ。特にすぐ上の兄貴とは齢が2つしか違わないから、ずっとくっついて歩いて、一緒に野球やって来て、野球だけじゃなくて、いろんなことでいつも周りから比較されてきた。兄貴は優秀でさ、勉強も出来るし、野球も上手い。それに引き換え、僕は勉強は出来ないわけじゃないけど、特別出来るわけじゃない。野球も下手じゃないけど、飛び抜けて上手いわけじゃない。結果、あそこの兄弟は典型的な賢兄愚弟だって、ずっと言われて来た。」
「・・・。」
「救いは親も一番上の兄貴も『アイツに比べてお前は・・・』なんてことは、言葉にも態度にも絶対に表さなかった。だからなんとかグレずにここまで来られたんだけどね。ただ、コンプレックスは抱えたよ、って言うか今でもバリバリに抱えてる。」
そこまで言うと、松本くんはフッとため息をつく。
「確かに・・・凄いお兄さんだもんね。」
それは私も認めるしかない。現在の神奈川高校野球界の王者と言われているのが御崎高校。なにしろ一昨年の夏、昨年の春夏、そして今年の春、ここ4期の大会の神奈川県代表を独占。先の春のセンバツ大会では準優勝まで勝ち進んだ。
その御崎高の絶対的エースが、3年生の松本哲さん。御崎高の黄金時代は彼の入学と共に始まったのだ。
そして、今や神奈川県全校の全野球部が
「打倒御崎高校、打倒松本哲。」
をスローガンに掲げているのは間違いない。そんな神奈川高校球界に君臨していると言っても過言ではない松本投手が、松本くんの実のお兄さんだと知った時は、本当に驚いた。
「前に僕は御崎高に入れてもらえなかったと佐藤にバカにされてしまったけど・・・。」
「でも、後で佐藤くん、悪かったって謝ってたじゃない。」
「うん、別にそれを根に持ってるわけじゃない。まぁ、当たらずと言えども遠からずだから。」
「松本くん・・・。」
「僕が御崎高に入りたいと言えば、まぁ入れた。でもそれは所詮兄貴のおまけだよね。」
「・・・。」
「御崎に行けば、ずっと『松本哲の弟』、そのレッテルを貼られて、ずっと兄貴と比較されて・・・今までもそうだった。それが嫌で僕は、御崎に入らなかった。兄貴から離れて、自分がどこまでやれるのか、自分の力を試したくて、僕はこの学校に入ったんだ。だけど・・・ぱっとしないことはやっぱり変わらない。」
そう言って、寂しそうな表情を浮かべる松本くんに
「そんなことないよ。まだ始まったばかりじゃない、私たちの部活は。」
私は励ますように言う。
「そっか、そうだよな・・・木本さん、ありがとう。」
それに応えて、松本くんは笑ってくれたけど、それが上辺だけのものなのは、残念ながらすぐにわかった。
「・・・。」
「救いは親も一番上の兄貴も『アイツに比べてお前は・・・』なんてことは、言葉にも態度にも絶対に表さなかった。だからなんとかグレずにここまで来られたんだけどね。ただ、コンプレックスは抱えたよ、って言うか今でもバリバリに抱えてる。」
そこまで言うと、松本くんはフッとため息をつく。
「確かに・・・凄いお兄さんだもんね。」
それは私も認めるしかない。現在の神奈川高校野球界の王者と言われているのが御崎高校。なにしろ一昨年の夏、昨年の春夏、そして今年の春、ここ4期の大会の神奈川県代表を独占。先の春のセンバツ大会では準優勝まで勝ち進んだ。
その御崎高の絶対的エースが、3年生の松本哲さん。御崎高の黄金時代は彼の入学と共に始まったのだ。
そして、今や神奈川県全校の全野球部が
「打倒御崎高校、打倒松本哲。」
をスローガンに掲げているのは間違いない。そんな神奈川高校球界に君臨していると言っても過言ではない松本投手が、松本くんの実のお兄さんだと知った時は、本当に驚いた。
「前に僕は御崎高に入れてもらえなかったと佐藤にバカにされてしまったけど・・・。」
「でも、後で佐藤くん、悪かったって謝ってたじゃない。」
「うん、別にそれを根に持ってるわけじゃない。まぁ、当たらずと言えども遠からずだから。」
「松本くん・・・。」
「僕が御崎高に入りたいと言えば、まぁ入れた。でもそれは所詮兄貴のおまけだよね。」
「・・・。」
「御崎に行けば、ずっと『松本哲の弟』、そのレッテルを貼られて、ずっと兄貴と比較されて・・・今までもそうだった。それが嫌で僕は、御崎に入らなかった。兄貴から離れて、自分がどこまでやれるのか、自分の力を試したくて、僕はこの学校に入ったんだ。だけど・・・ぱっとしないことはやっぱり変わらない。」
そう言って、寂しそうな表情を浮かべる松本くんに
「そんなことないよ。まだ始まったばかりじゃない、私たちの部活は。」
私は励ますように言う。
「そっか、そうだよな・・・木本さん、ありがとう。」
それに応えて、松本くんは笑ってくれたけど、それが上辺だけのものなのは、残念ながらすぐにわかった。