With you~駆け抜けた時・高1 春&夏編~
⑪
そうこうしているうちに、地区大会の組み合わせ抽選会の日がやって来た。
抽選会は監督は参加せず、キャプテンがくじを引く。私がお供をして、顧問のゴーさんこと山上先生が引率。
会場は200近い高校のキャプテンとスタッフが集結し、熱気に包まれている。私達が指定された席に腰を下ろすと、後方からざわめきが聞こえて来たかと思うと、取材陣のフラッシュの音が一斉に響き出す。
何事かと振り返ると、ひとりの高校生がフラッシュの光を掻き分けるように、こちらに歩いて来る。
「松本哲だ。」
キャプテンが私に告げる。その名前を聞いて、ハッとする。
(あの人が、松本くんのお兄さん・・・。)
大袈裟でなく、今の神奈川高校球界は、彼を中心に回っている。当然、本人にもその自覚があるのだろう。その全身から放つオーラは凄まじく、私の視線は釘付けになる。
ううん、私だけじゃない。この会場にいるほとんど全ての人間の視線を一身に集めながら、しかし松本投手はそれが当たり前であるかのように歩を進めると席についた。
「それでは神奈川県夏の予選大会、組み合わせ抽選会を開始します。」
そして、まるで彼の着席を待っていたかのように司会者の声が会場に響いた。
抽選の順番は春の県大会の成績に基づいたシード校から。当然のようにその大会を制して、第1シード校となった御崎高の松本キャプテンがまずクジを引き、その姿にまた一斉にフラッシュが焚かれる。
御崎高がどこの枠に入るかによって、大会の様相は大きく変わる。その動向には、各校とも注視せざるを得ない。
抽選は順調に進んで行き、我が校の初戦の相手も決まった。2時間ほどで抽選会は終わり、私達が会場を後にすると
「西。」
とキャプテンを呼び止める声。一緒に振り返った私は思わず固まる。だって、そこに立ってたのが松本哲さんだったからだ。
「おう。」
緊張している私の横で、しかしキャプテンは極めて普通。
「省吾はちゃんとやってるか?」
「うん、頑張ってるよ。」
「そうか、ならよかった。」
笑顔を浮かべた松本さんは
「いよいよ最後の大会だな。」
とすぐに表情を引き締めて言う。
「ああ。」
「明協とは別ヤマに入ったから、決勝まで行かないと当たらない。」
「そういうことだな。」
「上がって来い、必ず。待ってるぞ。」
そう言って、ニヤッと笑った松本さんは
「じゃ、またな。」
そう言い残すと、私達にクルリと背を向けた。
「上がって来い、待ってるぞ、か・・・。」
「えっ?」
「自分たちが負けるなんて、サラサラ思ってないと言うことだ。」
「キャプテン・・・。」
「舐められたもんだな。まぁ仕方ないが・・・。」
その後ろ姿を見送りながら、キャプテンは思わず苦笑いを浮かべていた。
抽選会は監督は参加せず、キャプテンがくじを引く。私がお供をして、顧問のゴーさんこと山上先生が引率。
会場は200近い高校のキャプテンとスタッフが集結し、熱気に包まれている。私達が指定された席に腰を下ろすと、後方からざわめきが聞こえて来たかと思うと、取材陣のフラッシュの音が一斉に響き出す。
何事かと振り返ると、ひとりの高校生がフラッシュの光を掻き分けるように、こちらに歩いて来る。
「松本哲だ。」
キャプテンが私に告げる。その名前を聞いて、ハッとする。
(あの人が、松本くんのお兄さん・・・。)
大袈裟でなく、今の神奈川高校球界は、彼を中心に回っている。当然、本人にもその自覚があるのだろう。その全身から放つオーラは凄まじく、私の視線は釘付けになる。
ううん、私だけじゃない。この会場にいるほとんど全ての人間の視線を一身に集めながら、しかし松本投手はそれが当たり前であるかのように歩を進めると席についた。
「それでは神奈川県夏の予選大会、組み合わせ抽選会を開始します。」
そして、まるで彼の着席を待っていたかのように司会者の声が会場に響いた。
抽選の順番は春の県大会の成績に基づいたシード校から。当然のようにその大会を制して、第1シード校となった御崎高の松本キャプテンがまずクジを引き、その姿にまた一斉にフラッシュが焚かれる。
御崎高がどこの枠に入るかによって、大会の様相は大きく変わる。その動向には、各校とも注視せざるを得ない。
抽選は順調に進んで行き、我が校の初戦の相手も決まった。2時間ほどで抽選会は終わり、私達が会場を後にすると
「西。」
とキャプテンを呼び止める声。一緒に振り返った私は思わず固まる。だって、そこに立ってたのが松本哲さんだったからだ。
「おう。」
緊張している私の横で、しかしキャプテンは極めて普通。
「省吾はちゃんとやってるか?」
「うん、頑張ってるよ。」
「そうか、ならよかった。」
笑顔を浮かべた松本さんは
「いよいよ最後の大会だな。」
とすぐに表情を引き締めて言う。
「ああ。」
「明協とは別ヤマに入ったから、決勝まで行かないと当たらない。」
「そういうことだな。」
「上がって来い、必ず。待ってるぞ。」
そう言って、ニヤッと笑った松本さんは
「じゃ、またな。」
そう言い残すと、私達にクルリと背を向けた。
「上がって来い、待ってるぞ、か・・・。」
「えっ?」
「自分たちが負けるなんて、サラサラ思ってないと言うことだ。」
「キャプテン・・・。」
「舐められたもんだな。まぁ仕方ないが・・・。」
その後ろ姿を見送りながら、キャプテンは思わず苦笑いを浮かべていた。