With you~駆け抜けた時・高1 春&夏編~
次に大宮くん。初戦こそ、天敵小林投手の前にいいところが全くなかったけど、その後の試合では持ち前のスピ-ドを存分に発揮して、1年生の中ではここまで唯一の練習試合全試合先発出場を果たし、レギュラ-はほぼ当確の気配。


「みどり、まぁこれが実力ってもんだ。惚れるだろ。」


同系統の誰かさんに鼻っ柱を折られたことなんて、すっかり忘れたようで、私はハイハイと聞き流している。


逆に久保くんは実戦よりまだ基礎体力をつける段階との評価のようで、試合にはほとんど出ていない。佐藤くんは前述の通り、レギュラ-争いの真っ最中。そして残るは松本くんだ。


「キャプテン、なんでアイツが試合に出られるんですか?」


佐藤くんと東尾さんの関係のちょうど裏返し。今は何人かの先輩が、松本くんが起用されてることに不満を抱いている。確かに現状、松本くんは守備でも打撃でも精彩を欠いている。にも関わらず、監督は大宮くんのようにスタメンではないけど、試合には必ず出場させている。


「まさか、アイツが松本哲の弟だから、贔屓されてるわけじゃないですよね?」


さすがに監督に面と向かっては言えない不平を、キャプテンにぶつける先輩達。


「そんなわけないだろう。なんで御崎高のエースの弟が、我が明協高で依怙贔屓されるんだ?」


そう言って詰め寄って来る部員の顔を見渡しながら笑ったあと、キャプテンは


「練習試合に多く出場するイコ-ルレギュラ-というわけでもないだろう、監督には監督のお考えがある。お前達は試合に出た時に、自分の力をきちんと発揮できるように準備を怠らないようにしろ。いいな。」


諭すように言った。彼らが去り、ブルペンに向かおうとするキャプテンに


「大変ですね。」


私は思わず声を掛けてしまう。


「練習をする為に野球部に入った奴は1人もいない。みんな試合に出たいんだ、レギュラ-になりたいんだ。だからみんな必死なんだ。」


「はい。」


「でも力はみんな平等には与えられない。優劣がはっきり結果に出る、それがスポ-ツ、野球の残酷なところであり、スッキリしているところでもある。」


「そうですね。」


「今から言うことは、監督から聞いた話じゃない。あくまで俺の想像だ、そのつもりで聞いてくれ。」


「はい。」


「監督は・・・アイツらじゃ足りないと思ってるんだ。御崎高を、松本哲を倒すには。だから・・・省吾に目を覚まして欲しいんだ。」


「えっ・・・?」
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