With you～駆け抜けた時・高1 春＆夏編～

「さぁ、行くぞ。」


キャプテンの声と共に、2回の守備に就こうと選手達がベンチを出ようとした時


「大宮。」


と監督が呼び止めた。振り向いた大宮くんに


「交代だ。」


厳しい顔で、監督が告げる。一瞬言われたことが理解できずに固まる大宮くんに構わず


「サードの後藤がセンタ－、サードには松本が入れ。」


と続ける。


「えっ、僕ですか？」


驚く松本くんに


「そうだ、早く行け。佐藤、選手交代を主審に告げて来い。」


監督は矢継ぎ早に指示を出す。高校野球では監督はグラウンドに立ち入ることを許されていない。だからグラウンドに居る選手や審判に何かを告げる時には、ベンチから伝令を出す。今回伝令に選ばれた佐藤くんは、一瞬驚いた表情になったが、すぐに走り出す。


「省吾、行くぞ。」


やや茫然としていた松本くんは、キャプテンから声を掛けられて、ハッとしたようにグラブを手にするとグラウンドに向かう。


そして大宮くんは、睨むように監督を見ていたが、やがてドサッと音を立てて、ベンチに腰を下ろす。


盛り上がったベンチのムードは一変してしまい、私は思わず監督の顔を見てしまうけど、その表情は全く変わらなかった。


試合はそのまま、1-0のまま推移する。星さんのピッチングは危なげなく、相手打線を寄せ付けないけど、こちらもなかなか追加点を奪えない。大宮くんに代わって、1番に入った松本くんも最初の打席は凡退。守備でもエラ－1、やはり心の準備が出来ていなかったのかもしれない。


「クソッ。」


ベンチに帰って来た松本くんが思わず、そう口走る。


（頑張って・・・。）


私は心の中で、そう応援することしか出来ない。


5回、6回・・・イニングは進むが膠着状態。明らかにこちらが押してるんだけど、決定打が出ない。チャンスでキャプテンに2度、打席が回ったんだけど、相手校はいずれも敬遠で、キャプテンとは勝負せず、後続のバッタ－が打ち取られて、得点を奪えない。


こうして迎えた7回。ここまでほぼ完璧なピッチングを続けて来た星さんだったが、ついに先頭打者に四球を与え、この試合初めて、ノーアウトでランナ－を背負った。酷暑とも言える中での試合、そろそろ疲れがたまって来ても仕方がない。