With you~駆け抜けた時・高1 春&夏編~
「お疲れ様でした。」


そんな私に声が掛かる、対戦相手の本牧学園高のマネ-ジャ-さんだ。


「今日は、ありがとうございました。」


私は頭を下げる。


「いい試合だったと思います。」


「はい。」


「私たちの夏は・・・これで終わりました。」


目を真っ赤にして、でも精一杯の笑顔を浮かべて、マネ-ジャ-さんは私に語り掛ける。


「私にとっては、最後の夏でした。でも、みんな全力を尽くして戦って・・・きっと悔いはないはずです」


「はい。」


「明協さんのこれからのご健闘をお祈りします。お邪魔かもしれませんが、これを・・・。」


そう言って差し出されたのは千羽鶴。先ほどまで、相手校のベンチに飾られていたものだ。


「できれば、ずっと一緒に・・・決勝戦まで連れてってあげて下さい。」


この鶴にどんな思いが込められているが、どれだけの労力が掛かっているか、同じマネ-ジャ-として、私もよくわかっている。


「ありがとうございます、確かにお預かりしました。」


こんな時、なんて答えたらいいのか、先輩がいない私は、誰にも聞くことが出来ず、自分なりに考えた言葉を添えて受け取った。


「じゃ、失礼します。」


年下の私に、丁寧にお辞儀をして、マネ-ジャ-さんは去って行く。私も深々と頭を下げた。


高校野球では、昔から続くこのセレモニ-が、近年禁止や廃止の方向に進んでいる。託される側の負担が重すぎるというのだ。確かに神奈川で言えば、勝者である代表校は200に近い千羽鶴を抱えることになる。その運搬、管理、そして最終的な処分・・・決して楽ではない。


そして、こうやって挨拶を交わしている時間が次の試合の準備等の妨げになるという、運営上の問題も指摘されている。


それでも、私はやっぱりこの時間を失うことには反対だった。そんな時が来てほしくはないけど、いつか私たちのチ-ムが敗れた時には、やっぱり相手チ-ムに私たちの思いを託したい。


「木本、大丈夫か?そろそろ行くぞ。」


私が少し、おセンチな気持ちになっていると、キャプテンが迎えに来てくれた。


「はい、今行きます。」


そう答えた私は、もう1度、相手校のマネ-ジャ-の後ろ姿に一礼すると、千羽鶴と共に歩き出した。
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