With you~駆け抜けた時・高1 春&夏編~
「昨日の試合を見てわかるように、ウチの課題はバッティングだ。」


松本くんの練習から目を離さずにキャプテンが言う。


「昨日までに登場したシード校は、ほとんどが大差コールド勝ちで初戦を突破した。神奈川県予選は先が長い、少しでも消耗を少なくして戦いたいのが本音だ。だがウチは僅差の接戦をしっかり9回まで戦わされた。」


「はい・・・。」


「初回にタイムリーを打った後、相手は4番の俺とまともに勝負してくれなかった。歩かされて、後続が打ち取られて、追加点が取れなかったのが原因だ。」


そうだったと私も思う。スコアを付けながら、正直もどかしかった。


「昨日5番を打った後藤は内野手だが、いきなりセンターを守れと言われても、無難にこなしたように器用な選手だ。だがこんなことを言っちゃ悪いが、器用貧乏の面もある。昨日は6番だった河井には、練習試合では何度か5番に入ってもらった。ミートの上手い好打者なんだが、長打力に欠けていて、5番としては物足りない。監督もいろんな選手を起用しているが、なかなかはまらない。」


「はい。」


「まだ1打席だ。だが1打席で選手はガラッと変わることがある。今の省吾に必要なのは、自分に対する自信だよ。」


キャプテンの言葉に、私は大きく頷く。


「さっき、大宮くんと話した時、彼が意外な伏兵が現れて、レギュラーが危ないかもって言ってましたけど、その意味が今、わかりました。」


「そうか、やや自信過剰気味だった奴に危機感を植え付けたんなら、いよいよ省吾の台頭は、ウチのチームにとって福音だな。」


そう言って笑うキャプテンにつられるように私も笑顔になる。


そこに


「キャプテン。」


と久保くんが近づいて来た。


「監督がお呼びです。ミッチャンも一緒に来てくれるかな。」


「うん、わかった。」


松本くんたちの練習もまだ始まったばかり。しばらく続くだろう。私はキャプテンと一緒にこの場を離れた。


ノックをして、監督室に入った私たちに


「西、久保が完成させてくれたぞ。」


と監督が嬉しそうに声を掛けてくる。


「そうですか、間に合ってよかった。創、ご苦労だったな。」


「いえ。」


照れ臭そうに笑う久保くんに


「何の話?」


話が見えない私が尋ねる。


「他校対策のデータベースを創が作ってくれたんだ。」


「えっ?」
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