With you~駆け抜けた時・高1 春&夏編~
(大宮くん、お願い、打って。)


私の願いが届いたかのように、大宮くんがピッチャ-の足元を抜くセンタ-前ヒットを放ち、ベンチはワッと盛り上がる。2番の東尾さんが簡単に送りバントを決めて、ワンアウト2塁。前の試合では、星さんはフライに倒れたけど、キャプテンがタイムリ-を放った。でも今日はそのパタ-ンだと、キャプテンは勝負を避けられる。


「星さん、頼みますよ!」


ベンチから声が飛ぶ、みんなだって当然わかっている。自分の為にもここは是非とも打ちたい場面、星さんの気合が、こちらにも伝わって来る。


初球。狙いすましたように、バットを振り抜いた星さんの打球は痛烈なライナ-だったけど、ファーストの真正面に飛んで捕られてしまう。天を仰ぐ星さん、これでツーアウトだ。そして、相手は当たり前のようにキャプテンを敬遠して、バッタ-は澤田さん。


「くそ、舐めやがって。」


澤田さんの声が、私にまで聞こえて来る。


「澤田、頼むぞ。」


ベンチからの声に1つ頷いて、バッタ-ボックスに向かおうとする澤田さんを


「待て。」


と監督が呼び止める。ハッとして振り返った澤田さんに


「交代だ。」


監督の声が無情に響く。固まる澤田さんをよそに


「佐藤、伝令に行け。バッタ-澤田に代わって松本。」


監督はあくまで冷静な声で指示を出す。


「わかりました!」


佐藤くんが飛び出して行き、私の隣にいた松本くんが、スッと立ち上がる。


「松本くん。」


「うん。」


私の声に応えた松本くんの表情は、前の試合とは別人のように落ち着いていた。バットを手にし、2度、3度と素振りをすると


「バッタ-澤田くんに代わって、松本くん。」


という場内アナウンスの声を背に、バッタ-ボックスに向かう。


(松本くん・・・。)


その背中を私は、じっと見つめている。バッタ-ボックスに入った松本くんが、ピッチャ-に相対して、試合再開。


「落ち着いてるぞ。」


佐藤くんの声がする。初球、相手ピッチャ-のボールに大きな空振りをする松本くん。


「力入るのはわかるが、大振りになるな。」


「うん。」


佐藤くんが思わず漏らす声に、私は頷く。そして2球目、投げ込まれたストレ-トに松本くんのバットが反応する。そして・・・


「やった!」


私は思わず叫ぶ。それは前の試合より遥かに痛烈なホームランだった。
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