With you~駆け抜けた時・高1 春&夏編~
念願の先制点が、一気に3点も入った。大宮くん、キャプテンに続いて引き締まった表情で、ホームインした松本くんをベンチは大騒ぎで迎える。


「松本くん、ナイスバッティング。」


私が声を掛けると


「ありがとう。」


それまで、殊勲打を放ったとは思えないくらい表情が固かった松本くんが、安心したようにニコリと笑顔を浮かべた。


「勝とうね。」


「ああ。」


私たちは頷き合う。


「これで手を緩めるな、一気にたたみかけろ。」


そんな中、あくまで冷静に指示を出す監督の声に応えるように、河井さんがヒットで出塁。


すると


「澤田。」


と交代したばかりの澤田さんを監督が呼ぶ。


「伝令だ、バッター後藤に代わって佐藤。」


「はい。」


澤田さんがベンチを出ると同時に、みんなが一斉に佐藤くんを見る。


それまで、みんなと一緒にもりあがっていた佐藤くんは、突然の指名に一瞬固まったけど、すぐにその顔にサッと赤みが差してくる。


「おっしゃ、行ってくるぜ!」


バットをわしづかみで掴むと勢いよくベンチを飛び出す。


ブルンブルンと素振りをくれ、大股でバッターボックスに入る佐藤くん。練習試合からここまで、なかなか試合に出る機会がなく、腐っていた彼に、絶好のチャンスが巡って来た。


「さ、来いや!」


相手ピッチャーに吼える佐藤くん。気合満点なのはいいけど、相手は他校とはいえ、一応先輩だし・・・と心配をしていると、やや顔を紅潮させたピッチャーが内角にやや厳しいボールを投げ込んで来る。


もちろん当てるつもりではないだろうけど、ちょっと脅かしてやれといったところなのだろう。


しかし、そんなことには怯まないのが佐藤くん。2球目、同じような所に来たボールに、ふざけるなとばかりに、バットを出す。


スイングは鋭かったけど、当たりはボテボテのサードゴロ。


でも、強い打球に備えて、深めの守備位置をとっていた相手のサードが、慌てて前進して来て、懸命にファーストに送球するも間一髪セーフ!内野安打だ。


ベンチは大歓声、私も満面の笑みで拍手を送るけど


(しみったれたヒットだ。)


当の佐藤くんは、お気に召さないようで、ファーストベース上で憮然としていた。
< 96 / 200 >

この作品をシェア

pagetop