With you~駆け抜けた時・高1 春&夏編~
本人の感想はともかく、これでツーアウトだけどランナーは1、2塁。チャンスは拡大し、こちらは押せ押せムード。


この勢いに乗って、守備は堅実だけど、打撃は正直、あまり得意ではない8番の片岡さんと9番の栗田さんが連続タイムリーヒットを放って、2点を追加。


これで5-0、相手ベンチはここでピッチャー交代。そして、こちらは打者一巡ということで、大宮くんが、この回2度目の打席に。


「交代したピッチャーの1球目は狙え。」


古くから野球界に伝わる格言だけど、それに従ったのか、大宮くんは狙い打ちしたけど、ショート真っ正面のゴロでスリーアウトチェンジ。でも0-0の緊迫した試合は、一気にこちらに形勢が傾いた。


「よし、しっかり守って行け。」


監督の言葉を背に、グラウンドへ散っていくナイン。


大量援護点を貰って、星さんのピッチングはいよいよ冴え、相手を寄せ付けず、三者凡退に抑える。


「この回、2点取ればコールドだぞ。」


という声が上がる。県大会では、決勝戦を除き、5回ないし6回終了時に10点以上、7回ないし8回終了時に7点以上の差がついていれば、その時点で試合終了となる。ちなみに全国大会である甲子園では、このルールはない。


先頭の東尾さんが四球で出塁、星さんが丁寧に送りバントをきめると、4番のキャプテンはまたしても敬遠。


この点差でも、貪欲に追加点を狙うこちらに対して、相手も必死の防戦だけど


「この作戦、どうなんだ?今の省吾は乗ってるぜ。」


大宮くんが首を捻る。前の回、代打に出て、ホームランを打った松本くんはそのままサードに入っていて、次のバッターだ。


「左対左だからじゃない?」


左バッターの松本くんに対して、相手ピッチャーも左投げ。左対左は打者の方が不利なのが一般的だ。だけど


「セオリーはセオリー。だけど、それは時と場合、それに人による。」


大宮くんはクールに答える。そして・・・。


結果は間もなく出た。マウンド上の相手ピッチャーは、ガックリ膝に手を置き、項垂れる。それは見事なスリーランホームランだった。


「3打席連続ホームラン・・・。」


呆気にとられる私に


「打てるとは思ったけど、まさかホームランとは・・・。」


大宮くんも驚きを隠せない。そんな中、ベースを一周して戻って来た松本くんの表情は固く、蒼ざめてるように見えたのが、印象的だった。
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