秘密の出産をするはずが、エリート外科医に赤ちゃんごと包み愛されています

「なにを考えているんですか? どうして私?」

意味がわかりません。この状況で食事ができる三井先生にも、軽口で恋人になってほしいだなんていう神経も。強気に睨むと、三井先生は唇の端を持ち上げた。

くりっとした丸い瞳が印象的な甘い顔立ち。困ったように眉を下げているが、一ミリもそうは見えない。

「女性からそんな視線を向けられるのは初めてだな」

これまで女性に不自由した経験などないであろう三井先生には、私のような男性に不慣れな女は新鮮に映るらしく、からかわれているのが丸わかりだ。

そんな態度からは、どうしても私に対する気持ちが見えない。

私だけが振り回されてムキになっているみたいで苛立ちを隠せず、拳をキツく握る。

「患者の家族に言い寄られて困っていただろ? そこで俺が芹沢を恋人だと紹介すれば、彼も諦めがつくんじゃないか?」

いい案だとでも言いたいのだろうか。

あまりにも短絡的な考えに呆然としてしまう。

「そのためだけに恋人になれと?」

どうして?

なぜ?

そんな疑問ばかりが浮かんでは消える。

「実際に俺も困っているんだよ。スタッフや患者の家族からの熱烈なアプローチにね」

困ったように髪を掻き上げる仕草に思わず心臓が跳ねる。

動揺を悟られまいと、唇を強く引き結び顔に力を入れた。

つまり三井先生はお互いの利益のために私にそう言ったのだ。

最初からわかっていたじゃない、私に対する気持ちはないって。それなのにこんなにも心が乱される。

これ以上顔を合わせていたくない。

「わ、私は困っていませんからお断りします」

まだ半分以上残っているランチのトレイを手に立ち上がった。

「それでは失礼します」

「おい」

三井先生はなにか言っていたけれど、私は一度も振り返らず返却口にトレイを置いてカフェレストランをあとにした。

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