秘密の出産をするはずが、エリート外科医に赤ちゃんごと包み愛されています

「好きだから、です」

しばらくすると、杏奈は弱々しい声でつぶやいた。

「今、なんて?」

聞き間違いではないよな?

顔を覆った杏奈が指の隙間から俺を見てきた。

その瞳には熱がこもり、自惚れたくはないが期待してしまう。

「好き、です。三井先生のことが」

ようやく待ち望んでいた言葉を耳にできたというのに、信じられない気持ちが強く、すぐには思考が追いつかない。

「私、強くならなければいけないって、そんなことばかり考えて。一人でも大丈夫だって思ったんです」

「もう一度、もう一度言ってくれ」

「え?」

「杏奈の気持ちだよ。もう一度聞きたいんだ」

「そ、そんなに何度も、恥ずかしいです」

杏奈は再び顔を覆ってしまった。しかしその仕草に我慢が限界を迎え、気がつけばそんな杏奈を抱きしめていた。

「頼む、もう一度聞かせてくれ」

「す、好きです」

胸にふつふつと愛しさ以上の感情が込み上げる。もう二度と離さない。

自分がこんなにも誰かに夢中になるなんて、これまでの人生からは考えられない。こんなにも誰かをほしいと思ったのは初めてだ。

それほど大切でかけがえのない存在。守ってみせる、絶対に。

最愛の妻と愛しい我が子が一気にできて、より一層意欲が湧いてきた。二人を守るためならなんだってする。

「三井、先生。そろそろ離してください」

「だめだ。まだ足りない」

これまでずっと離れていたんだ。

少しくらいいいだろう。

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