秘密の出産をするはずが、エリート外科医に赤ちゃんごと包み愛されています

本気で怒ってはいないのだろうが不機嫌さを隠そうとしない、まるで子どものような宏太さん。

新たな一面を知り、嬉しさが込み上げる。これからたくさん新しい顔を知っていくのかと思うと、ほっこりとした気持ちになった。

「あの、ふつつか者の私ですが、これからよろしくお願いします」

「どうしたんだ、急に」

「いえ、なんだか言いたくなってしまって」

「一生離さないから、覚悟しておくんだな」

「……ひゃっ!」

耳を甘噛みされ、思わず変な声が出た。

驚き過ぎて言葉が出ない代わりに宏太さんの顔を見つめる。

「な、何をするんですか」

「ヤキモキさせられたお返しだ」

お返し?

まったくわけがわからなかったが、それ以降機嫌が元通りになったのでよしとする。

「そうだ、杏奈」

「はい」

「退院したらまずは婚姻届を提出しよう」

婚姻、届。

本当に宏太さんと家族になれるのね。

まだ実感はないけれど、明るい未来に希望を感じる。

家族三人の生活を想像しただけで、幸せな気持ちでいっぱいになった。

「今すぐ杏奈を俺のものにしたいんだ」

黙り込む私を見て迷っているのだと勘違いしたらしい。私の手を取り、懇願するような瞳を向けられる。

「はい、喜んで」

私はそんな宏太さんの手をギュッと力いっぱい握り返した。

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