秘密の出産をするはずが、エリート外科医に赤ちゃんごと包み愛されています

だめか。

ならば吸引だ。

チューブが細いから、食べ物がかき出せるかはわからない。

そうこうしているうちに、息を切らした三井先生が最初に病室に現れた。

「窒息か。食べ物を詰まらせたんだな」

真剣な表情の三井先生は医師の顔つきをしている。

「はい! 私が見つけたときには、すでに呼吸をしていませんでした!」

「モニター装着して挿管の準備だ。吸引はあとでいい。ベッドを動かすぞ」

「はい!」

ベッドを移動させて頭元に三井先生が入るスペースを作る。そうこうしているうちに病棟内の看護師が救急カートを押しながら飛んできた。

そしてもうひとり夜勤の看護師が、心電図モニターを押しながらやってくる。

「芹沢さんは三井先生の補助。モニター類の装着はこっちにまかせて」

「はい!」

頼りになる夜勤のリーダーナースに指示され、救急カートに乗った物品を順番に三井先生に渡す。

「芹沢、喉頭鏡」

手が震えて喉頭鏡の接続がうまくできない。早くしなきゃいけないのに。

「落ち着け、大丈夫だから。焦りは禁物だ」

「は、はい」

はぁと大きく息を吐き出して気持ちを入れ替え、今度こそはと意気込む。手の震えはまだあるものの、見事に喉頭鏡とヘッド部分がうまく結合した。

「喉頭鏡です」

「うん、よくできたな」

優しく労うような言葉と優しい眼差し。緊迫した中での三井先生のひとことに、胸に温かい気持ちが広がっていく。

十年前の優しかった三井先生の顔がふと頭をよぎった。

だめだ、今は集中しなければ。

急変時の対応にも慣れている三井先生の迅速丁寧、かつ寛大な態度が安心感をもたらしてくれるのだろうか。

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