秘密の出産をするはずが、エリート外科医に赤ちゃんごと包み愛されています
「はーい、お疲れ」
お互い激務な上に勤務している病棟がちがうため、顔を合わせるのはずいぶん久しぶり。
美咲の向かい側の席に着いて、半個室になったカジュアルな空間をひと通り見回す。
「なかなかいい感じのお店だね」
「でしょう? 一度連れて来てもらったことがあるの。そこで気に入っちゃって。リーズナブルな上に、お料理も最高に美味しいのよね」
美咲のチョイスで飲み物と料理の注文を済ませた。
ほんのり酸味のあるフルーティーなスパークリングワインで乾杯し喉を潤す。疲れ切った身体に染みわたって生き返ったような気分だ。
「美味しい」
前菜のサーモンとアボカドのカルパッチョを口にして、思わず叫ぶ。
新鮮なサーモンが舌の上でとろけ、アボカドとよくマッチしていて、主張しすぎず素材の味を引き立たせる味つけもちょうどいい。
これは他の料理も期待できそうだ。
「どうよ? 仕事の方は」
久しぶりに顔を合わせると話題にのぼるのは必ずといっていいほど仕事のこと。
社会人になってから人生のうちの大半を病院に捧げているわけなのだから、それも当然なのかもしれない。
「相変わらず忙しいけど、なんとかこなしてるよ」
「ふふ、まぁそうだよねぇ。あたしも激務で毎日残業だよ。もう嫌になっちゃう」
そうは言いながらも、美咲はとてもしっかり者で仕事に対しての姿勢もすごく真面目。
勉強熱心な上に知識も豊富で、誰に対しても気配りを忘れない。
それでいていい程度にさばさばしているから、後輩には慕われ、先輩からはとても可愛がられている。
たまにはお互いに愚痴をこぼすこともあるけれど、美咲に会うとパワーをもらえ、また頑張ろうと思える。
彼女は私にとってカンフル剤のような存在だ。
「そういえば、聞いたわよ。三井先生のこと」
「えっ!?」
まさに今不本意ながらも思い浮かべていた人物の名前が美咲の口から出て、驚きのあまり目を見開く。