秘密の出産をするはずが、エリート外科医に赤ちゃんごと包み愛されています
ホームに立っていると、視線を感じたような気がして振り返る。
「奇遇だな、こんなところで会うなんて」
「み、三井先生!」
「いや、この場合は運命とでも言うべきか」
何やらわけのわからないことを言い一人納得するように頷く三井先生は、素材の良さそうなグレーのテーラードジャケットを羽織りベージュのチノパンをおしゃれに着こなしている。
似合っているのは言うまでもなく、爽やかなその装いは院内にいるときとはまたちがってそわそわする。
「やっぱり俺と杏奈は運命なんだな」
あ、杏奈って……いきなり名前呼び?
「何を言っているんですか、冗談でもやめてください」
「本気、なんだけどな」
私はそっぽを向き、声など聞こえていないといったふうに装う。
さらりと名前まで呼ばれて内心焦った。
隣の彼を意識してしまうのは少なからず男性という目で見ているからだろうか。
「きゃあ」
突然グンと距離を詰めてきた三井先生に驚きの声を上げた。
「顔が赤いな。この時間だし、どこかで食事でもしていたのか?」
「三井先生にお話する義務はないですよね」
「相変わらずつれないな、杏奈は」
「ま、また名前を呼びましたね」