秘密の出産をするはずが、エリート外科医に赤ちゃんごと包み愛されています
そうは思うものの、ダウンライトだけの薄暗い空間に緊張は増す一方。
「何飲む?」
「あ、えっと」
メニュー表が見当たらず私はしばし困惑した。
バーだからカクテルやブランデーがメインなはずだ。
ワインなども置いてあるのだろうか。
場慣れしていないのが自分でもよくわかる。だって仕方がないじゃない。初めての経験なのだから。
「おまかせします」
「了解、苦手なものは?」
「特にないです」
そう言うと三井先生はやってきた黒服のスタッフにオーダーを済ませた。
「あのあと斉木さんは大丈夫でしたか?」
勢いでここまできてしまったものの、何を話せばいいのやら。結局無難な話題しか思いつかなかった。
「ああ、意識も戻って今は落ち着いている。もう心配はないだろう」
「そうですか、よかった」
気になっていたのも事実だったのでそう聞いて安堵の息がこぼれた。
「斉木さんの孫の件はまだ解決していないだろ」
「それは、そうですけど」
こんなところで蒸し返さなくてもいいのでは?
なんとなく言葉に詰まってしまう。
「まだ気は変わらないのか?」
射抜くような瞳を向けられドキリとする。
「と言いますと?」
「この前と今日の昼間にも言ったことだよ」
『俺の恋人になってくれないか』