秘密の出産をするはずが、エリート外科医に赤ちゃんごと包み愛されています
思い出すだけで心がざわつく。けれど、真に受けてはいけないと自分に何度も言い聞かせた。
「差し出がましいようですが、三井先生にふさわしいお相手は他にたくさんいると思います。私のことはご心配には及びません」
冷静に言えた自分を褒めてあげたい。さすがにここまで言えばもう何も言わないだろう。
「頑固だなぁ、相変わらず」
小さく吐き出された苦笑混じりの言葉に緊張感が和らぐ。だが、射抜くような瞳は依然として私を捉えたまま離さない。
「でもこれだけは覚えていてくれ」
スッと伸びてきたしなやかな指先が私の頬を撫でる。
「俺は諦めが悪いんだ。杏奈が想像しているよりもずっとね」
目を細めて笑う姿に男性としての魅力をひしひしと感じる。
惑わされてはだめ。隙を見せてはいけない。本気で言っているわけじゃないってわかっているでしょ。
視線を外し、夜景に目を向ける。それでも落ち着かず、視界にいないというのに三井先生は抜群の存在感を放っていた。
背中に意識が集中してまるでそこだけ神経が研ぎ澄まされているよう。
瞬きひとつでさえも、今の私は敏感にキャッチしてしまう。
「杏奈、俺は」
「失礼致します」
ノックの音がしたかと思うと、扉が開き飲み物が運ばれてきた。