秘密の出産をするはずが、エリート外科医に赤ちゃんごと包み愛されています
それからどれくらい時間が経ったのだろう。気がつくと目の前がふわふわして視点も定まらなくなっていた。
「ちょっとお手洗いに行ってきます……」
スツールから立ち上がろうとするとふらついてしまった。
「きゃっ……!」
「っと、大丈夫か?」
とっさに伸びてきた腕に腰を支えられた。ぐっと近づく距離にダウンライトの雰囲気も合わさって思わず鼓動が飛び跳ねる。
私ったら何を意識しているのよ。こんなのは酔っているせいなんだから。
「杏奈」
頭ではわかっている。この手を振り払わなければいけないことを。
「す、すみません、大丈夫です」
「ふらふらじゃないか、こんな時まで強がる必要ないだろ」
「つ、強がってなんか」
たった一杯しか飲んでいないというのに足元がおぼつかない。
いつもならどうってことはないのにこの失態はどうしたことか。しっかりするんだ、私。早くこの手を振り払うんだ。
「とにかくここを出よう」
「大丈夫……ですから」
「どこがだよ」
先ほどよりもしっかりと腰に回されたたくましい腕に、密着するお互いの身体。
思考がアルコールで乱されているというのに、三井先生の存在だけははっきりと全身に伝わってくる。
身体が火照って仕方ないのはアルコールのせいに決まっている。
しっかりするんだ、私……しっかり。
「だ、だめです、歩け、ません……っ」
「お、おい」
その声を最後に、私の意識は途絶えた。