秘密の出産をするはずが、エリート外科医に赤ちゃんごと包み愛されています
「順調に回復されていますよ。今朝も病棟内を散歩されてましたし」
家族の不安を取り除き、和らげるのも看護師の役割。斉木さんの祖母、エツさんは脳梗塞を起こして意識を失い、救急搬送されたのち緊急オペとなった。
幸いにも処置が早かったおかげで後遺症もなく、倒れる前の状態に戻りつつある。このまま順調にいけば、四月の頭には退院できそうだ。
「そうですか、よかったです」
「退院も目の前ですね」
「ありがとうございます」
「それでは、失礼しますね」
やり残した仕事が手付かずのまま残っていたので、私は踵を返して背を向ける。
「ま、待ってください」
モゴモゴと口ごもりながらあちこちに視線を飛ばして、落ち着かない様子の斉木さんの孫。
まだなにか言いたいことがあるのだろうか?
それにしては明らかに態度が変だ。
「あの、どうされました?」
「こ、今度僕とお食事でもどうですか?」
ナースステーションには他の看護師もいてざわざわと騒がしいにも関わらず、私の周りだけ時間が止まったかのような沈黙が訪れた。
えっと、食事?
聞き間違いではないだろうか。
「以前お見かけした時から素敵な方だなと思っていて。もし良ければどうでしょうか?」
やはり聞き間違いではないようだ。